幼い頃、転んだりぶつけたりで痛い思いをすると、お母さんやおばあちゃんにさすってもらったことありますよね?
「痛いの、痛いの、飛んでけー!」
ていうやつです。
おまじない?気の持ちよう?
いやいや違います。触れること、さすることで痛みを抑制するメカニズムが身体に備わっているんです。
今回はそんなお話からスタートです。
目次
触れる刺激とは
触れられた、さすられた刺激のことを触圧刺激といいます。
触覚は皮膚表面に軽く触れるだけで感じ、圧覚は圧迫または牽引によって感じます。
触覚と圧覚は同時に感じるというよりも、刺激が移行します。最初は触覚で感知し、刺激が強くなると徐々に圧覚に移行するイメージです。皮膚の変形がポイントになります。
触圧刺激には……
- 触刺激
- 圧刺激
- 振動刺激
の3種類が存在します。
次の項でそれぞれの刺激の受容と伝達について見てみましょう。
触圧覚の受容と伝達について
触刺激、圧刺激、振動刺激にはそれぞれの受容器や特徴が存在します。下表をご覧ください。
触刺激 | 圧刺激 | 振動刺激 | |
受容器 | マイスナー小体
毛包受容器 |
メルケル盤
ルフィニ終末 |
パチニ小体 |
神経線維 | Aβ線維(Ⅱ群線維)
※顔面領域からの刺激は三叉神経を介して脳幹に入る。 |
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性質 | ・速度検出器
・順応が速い ・動きに反応し、動きが終わると圧刺激が持続していても反応しなくなる |
・強度検出器
・順応が遅い ・圧刺激が長時間持続してもインパルス発射を続ける
|
・加速度検出器
・最も順応が速い ・振動刺激に反応 |
伝導路 | ・後索路(脊髄延髄路)→精細触圧覚(触れたものの場所や性質がわかる)
・腹側脊髄視床路→粗大触圧覚(触れられているが、大まかにしかわからない) |
触圧受容器にはマイスナー小体、毛包受容器、メルケル盤、ルフィニ終末、パチニ小体があります。これらは皮膚組織に多数存在します(下図参照)
皮膚の感覚受容器(クリックで拡大できます)
ちなみに筋肉にも伸張刺激や振動刺激を感じるセンサーが存在しています。筋の長さを感じるセンサーである【筋紡錘】や張力を感じるセンサーである【腱紡錘】などの筋肉固有の受容器、また皮膚と同じで、痛みは【自由神経終末】、振動刺激は【パチニ小体】が筋膜などに配列されています。
触圧覚の感覚伝導路は2種類あります。
後索路(こうさくろ)と前脊髄視床路(ぜんせきずいししょうろ)です。
①後索路
脊髄延髄路とも呼ばれます。局在が明瞭で、精密な触覚を担当します。精細触圧覚といいます。
②前脊髄視床路
腹側脊髄視床路とも呼ばれます。局在が不明瞭で、大まかな触覚を担当します。粗大触圧覚といいます。
触圧刺激の求心性線維
出典:プロメテウス解剖学アトラス 頭頸部/神経解剖 第2版 坂井建雄
痛みを抑制するメカニズムについて
痛みについてに記事で、【痛みは身体の異常を知らせるアラーム】であるとお伝えしました。
痛みは、危険や異常を知らせて身体を防衛するための大切な機能です。
しかしながら、痛みは不快なセンサーでもあるので、長く続いてしまうと自律神経系を乱し、身体や精神に悪影響を与えだします。こういった害のある痛み刺激は抑制しないといけませんので、人体は様々な痛み抑制機能を有しています。
今回のテーマである「触れる・さする」という行為は、人体に備わる痛み抑制機能のひとつです。
この痛み抑制機構を……
ゲートコントロール理論
といいます。
1965年にロナルド・メルザックさんとパトリック・ウォールさんが提唱しました。
端的に説明すると、触圧覚による鎮痛のことで、触圧刺激が太い神経線維(Aβ=Ⅱ群)を介して、痛みを感じる細い神経線維(Aδ=Ⅲ群、C=Ⅳ群)に伝わってきた痛み感覚を脊髄後角で抑制します。
脳の中ではなく、脊髄レベルで抑制しているのがポイントです。
痛みの抑制を行うのは抑制性介在ニューロン、痛みを伝えるのはT細胞という神経細胞です。
わかりやすく図で見てみましょう。
まずは痛みだけを感じる場合……
Mが太い神経線維のAβ線維、触圧覚です。Uが細い神経線維のAδ・C線維、痛覚です。
痛み刺激だけだと、Aδ・C線維だけが興奮し、抑制性介在ニューロンの活動を抑制、痛み刺激を伝えるT細胞を興奮させます。ですので痛みがそのまま伝わり、激しい痛みを感じます。
次は、痛みがある時に、撫でたりさすったりした場合……
撫でる、さすることでMのラインである太いAβ線維が興奮します。Aβ線維は抑制性介在ニューロンを興奮させます。それにより痛みを感じるT細胞の興奮を抑制します。
ちなみにAβ線維そのものはT細胞を興奮させるので、痛み刺激が同時に伝わっているこのパターンは、完全に痛みを消すというよりも痛みレベルを下げるといったイメージで捉えるといいと思います。
また、痛み刺激が一切無く、撫でさするのみの刺激だと、Aβ線維のみが働くので、直接的なT細胞の興奮、間接的な抑制性介在ニューロンの興奮によるT細胞の抑制が同時に起こります。
言い換えると、興奮と抑制が等しくなるのでプラスマイナスゼロの刺激になります。
このことからAβ線維のみへの刺激は、痛みが全く起こらないということになります。
さいごに
触れる、さする効果についての記事でした。
その機序となるゲートコントロール理論は、ゲートコントロール”説”とも呼ばれています。このことから、完全なエビデンスにはなっていません。
しかしながら、昔から動物やヒトは、無意識に痛いところを舌で舐めたり、さすったり、撫でたりしてきました。体感できる事象としてしっかり存在しています。このことから、個人的にはゲートコントロール理論は間違いない理論であると感じています。
MRGではあん摩、マッサージ、指圧の施術を行っています。当方所属のパーソナルトレーナーはあん摩マッサージ指圧師として撫でるさする揉む押すなどの手技を行っていますが、ゲートコントロール理論を意識して行っています。痛みに悩む方は是非ご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございいました。