「血圧と筋力トレーニング」についての記事です。
血圧にとって良いトレーニング方法や、トレーニングの際の注意点などを記します。
目次
血圧とは
血液は最初に動脈を通って全身の細胞に栄養分や酸素を送ります。
この動脈部分の血圧は高く維持されます。
ここから徐々に細動脈、毛細血管と抹消にいくにつれて血圧は低くなり、血流は静脈に切り替わります。
心臓に戻る頃にはほぼ血圧は0になって、心臓の右心房というところに還ってきます。
これがおおまかな血液循環で人間の生命の維持を担っています。
この循環の際に心臓から拍出された血液が血管内を流れる際の圧力を「血圧」といいます。
いいかえれば、血液が血管壁を押す力のことです。
血液量(心拍出量)と血管の硬さ(血管抵抗)によって圧力が変わります。
血液量・血管抵抗が増加すれば血圧が上昇し、血液量・血管抵抗が減少すれば血圧が下降します。
最高血圧と最低血圧について
血圧には2種類あります。
ひとつは心臓をギュッと収縮させて、心臓から血液を送り出す時の「収縮期血圧」で、「最高血圧」ともいいます。
もうひとつは反対に全身を循環した血液が心臓に戻って心臓が最大限広がって、再度血液を押し出す直前の「拡張期血圧」で、「最低血圧」ともいいます。
脈圧について
前述の「収縮期血圧」と「拡張期血圧」の差を「脈圧(みゃくあつ)」といいます。
脈圧は60以上で心臓に近い太い動脈が硬化しているサインになります。
太い動脈は弾性血管といって、一旦受け取った血液を溜めて、心臓の拡張期に血流が維持されるように徐々に抹消に送る機能があります。
簡単にいうと、脈圧が高い状態というのは、太い動脈血管に伸展性が無くなるという事。
血管に弾性または伸展性(クッション性)が無くなると、血液を一旦受け止めて溜めることができず、血流の緩衝(衝撃吸収)ができません。
ですので、心臓が収縮して血液がドバっと流れてきたときに、もろに血流を受けてしまうため、収縮期血圧(最高血圧)が上がります。
また血管に弾性(伸展性)が無いですから、血液が一気に流れてしまいます。
本来、心臓の拡張期(最低血圧時)は伸びた血管が元の太さに戻る力を利用して、血流を維持します。
これにより、ある程度の血圧が維持されますが、一気に流れてしまうと血管内に血液が少ない状態になってしまい、血圧が大きく下がります。
このようにして最低血圧が下がり、最高血圧と最低血圧の差(脈圧)が大きくなります。
この脈圧の高い状態は動脈硬化の末期的症状なので、特に注意が必要です。
平均血圧について
1回の心周期の全ての圧の変動を平均化したものを「平均血圧」といいます。
簡単にいうと、身体全体の動脈に平均してどれくらいの血圧が掛かっているがわかる数値です。
計算方法は、「拡張期血圧」に「脈圧」の3分の1の数値を足します。
この数値が90以上の場合は、特に心臓から離れている細い動脈が硬化しているサインです。
細い動脈の硬化は動脈硬化の初期症状です。
末梢の細い動脈が硬化すると、心臓に血液が還りづらくなるので、必然的に心臓の血液が減ります。
このため心臓の押し出しが強くなり、今度は太い血管に強い血圧が掛かりだします。
これによりいずれ太い動脈も硬くなり、全身動脈硬化になっていくので、平均血圧が90を超えだしたら、生活習慣を修正した方が良いです。
血圧基準
正常は「収縮期血圧(最高血圧)」が129mmHgまで、「拡張期血圧(最低血圧)」が84mmHgまでです。
また、正常の範囲内ではあるんですが、少し高い数値もあります。収縮期血圧130~139mmHg、拡張期血圧85~89mmHgです。
正常高値血圧と呼ばれます。わかりやすくいうと高血圧の予備軍域ですね。
高血圧は140以上90以上になったときです。
3回連続で測定してこの数値が出続ければ立派な高血圧患者として診断されてしまいます。
収縮期血圧(最高血圧)が100mmHg以下の場合は低血圧となります。
心臓や血管への負担は少ないですが、重度だと倦怠感やめまい、立ちくらみ、最悪転倒などもあるので注意が必要です。
低血圧の人は特に下半身の筋トレをすると、筋ポンプ作用が高まり、血圧が正常値に近づくので有効です。
注意点としては、正常な血圧の方に比べて血液循環量が少ないということ。いいかえると酸素や栄養を送ることが苦手であるということです。
ですので、ウォーミングアップもなしに突然、高強度のトレーニングをするといったようなことは避けましょう。
どんな人でも、身体が温まっていない状態で急激な動きをすると酸欠になりやすいのですが、低血圧の方は顕著です。
しっかり栄養と休養をとって、念入りなウォーミングアップを行って、体調を万全にしてトレーニングに臨んでください。
トレーニング前の体調チェックは血圧測定で
トレーニングの前に必ず血圧を測ることをお勧めします。
上記で示したように簡単な計算で動脈硬化の進行具合がわかりますし、いつも測ることで「自身の血圧がだいたいこのくらいで、この数値がいつもの調子」と自覚できます。
平常時の血圧を把握することで肉体的・精神的ストレスが掛かりすぎている日は、交感神経優位になっていつもより上がったり、栄養不足や睡眠不足だと循環血液量が減り、逆にガクンと下がったりと、その時の状況が把握しやすくなります。
ストレス過多で血圧が高ければ、トレーニングの刺激自体もストレスなので、強度を落とすとか、低血圧時は酸欠防止のために呼吸を意識したトレーニングに切り替えるなど、臨機応変に対応できます。
ということで、その日その日の体調を把握しトレーニング強度を設定する際は、血圧の数値は参考になりますので、測定を習慣にしましょう。
高血圧症の方のトレーニング
高血圧症には2つのタイプがあります。
ひとつは特に原因(病因)はないのに高血圧な「本態性高血圧症」、もうひとつは原因に甲状腺機能亢進症やクッシング症候群、アルドステロン症などの疾患にみられるような「二次性高血圧症」です。
「二次性高血圧症」の場合はその原因疾患を治療すれば改善するので、まずはその疾患をしっかり治すことが大切です。
問題は前者の「本態性高血圧症」です。
その原因は生活習慣に起因しているので、自覚症状にも乏しく、知らぬ間に血管にダメージが与えられているので「サイレントキラー(無言の殺し屋)」なんて呼び方をされています。
高血圧症の90%はこの「本態性高血圧症」です。
高血圧症は、心臓発作や脳卒中の危険因子のために、特に高強度のウエイトトレーニングは注意が必要です。
血圧が……
収縮期血圧140~159または拡張期血圧90~99のステージ1
収縮期血圧160以上または拡張期血圧100以上のステージ2
の方は、ウエイトトレーニングをするのであれば医師の許可が必要です。
正常高値といわれる収縮期血圧120~139、拡張期血圧80~89の方もトレーニングと合わせて生活習慣の改善(主に食生活、減塩や減脂肪、野菜の摂取など)を意識しましょう。
ステージ1やステージ2の方はトレーニングの前に医師の指導の下、生活習慣をコントロール、場合によっては投薬などを併用して正常血圧に戻すことが最優先です。
正常な血圧に戻ったら、まず有酸素運動から始め、最大酸素摂取量と持久力をアップし、脂質をメインにしたエネルギー代謝でカロリーを消費することが大切です。
初期段階は安静時血圧の低下のために……
最大酸素摂取量の40~50%
の強度がベストです。
感覚でいうと「すごい楽だな~」くらいの強度です。
この強度でトレーニングを続け血圧が安定してきたら、徐々に運動強度を上げます。
最終的には……
最大酸素摂取量の50~85%
を目指します。
「まあ楽に感じる~ややきつい」くらいの強度です。
この流れを、15~30分間連続で行い、週3回、最低3か月は続けましょう。
強度を上げるにしたがって、トレーニング時間を30~60分、週3以上、この頻度でさらに3か月延長します。
この運動強度で、1週間で700~2000kcalを消費できます。
ウエイトトレーニングは、有酸素運動をはじめてある程度安静時血圧が安定してきたら併用していきます。
負荷の設定は……
MAXの50~60%、反復回数16~20回、まずは1セットから
です。
有酸素運動と同じ感覚でトレーニングをすすめます。
最初は楽だな~くらいでいいです。
スクワットやデッドリフトなどの多関節運動が全身を鍛えるのに効率が良いので優先しましょう。
トレーニングの経過とともに最終的には……
MAXの70%前後の負荷、反復回数8~12回、セット数3セット
を目指します。
トレーニング時間は30分以内が理想ですが、60分くらいまで伸ばしてもOKです。
週2回は行いましょう。
ウエイトトレーニングで注意が必要なのは……
呼吸
です。
特に胸部内圧が上がりやすいエクササイズ(オーバーヘッドプレスやバイセプスカール)などは出来るだけ避け、行う場合においても適切な呼吸法を使ってトレーニングしましょう。
一瞬息を止めて力発揮する方法を「バルサルバ法」といいますが、これを使うと血圧が急上昇し大変危険です。
最悪ブチッと血管がイってしまいます……。
高血圧者は力発揮時(スクワットに例えると立ち上がる時)に吐き、ブレーキ動作の時(スクワットに例えるとしゃがむとき)は吸うことを心掛けて下さい。
極力、息を止めないことを意識しましょう。
さいごに
血圧と筋力トレーニングは切っても切れない関係であることがおわかりいただけましたか?
MRGにおいてもセッション前に必ず血圧測定をしますが、過去に血圧測定を面倒であるといった態度を取られる方や、「なぜ血圧を毎回測らなきゃならんのだ!」とお怒りの訴えをされる方がいました(笑)
しかし、この記事を読んで頂ければ、その重要性を理解していただけたかと思います。
トレーニング(有酸素運動や無酸素運動)を安全に続けていけば、基礎代謝率、最大酸素摂取量や持久力が上がるので、どんどん血液の状態が良くなります。
高血圧でも低血圧でも注意点をしっかりおさえてトレーニングをして、血圧の安定を目指しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。