この記事は「外反母趾」についてです。
現代のライフスタイルによって足の指を使う機会が大幅に減りました。こういった生活習慣が原因で足の指を動かす筋肉が退化した状態を作り出し、足部に様々な疾患をもたらします。
なかでもその代表格が「外反母趾」です。
それでは早速詳しく見てみましょう。
目次
外反母趾ってなに?
母趾の外反と第1中足骨の内反を伴った変形のことをいいます。
出典:工藤慎太郎 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 医学書院
左の図が正常で、右の図が外反母趾です。
親指の付け根が内側に膨らんで、親指の先は外を向いている状態です。
発症しやすいのは圧倒的に女性です。男性の10倍の発症率です。
ハイヒールなどの足先が狭くなった靴の使用やそれに伴う足の指の退化が大きな原因です。
男性でも肥満や運動不足が原因で足の筋力が落ち、足趾(足の指)が退化します。
これにより偏平足を誘発し外反変形しやすくなるので要注意です。
変形が進むと特に親指の付け根に痛みが生じ、整形外科的疾患として治療対象になります。
上記の図の外反母趾角が正常だと10~15度、15度以上で外反母趾です。20度を超えると高度な外反母趾として定義されます。
外反母趾の症状は?
上記のとおり、変形と疼痛です。
それぞれを見ていきましょう。
変形について
どんな部位でもそうですが、後天的な関節の変形というのは筋力不足が大きな原因です。
退化した筋と緊張しすぎた筋の力学的な不均衡が関節に負担として掛かるので、変形が進行していきます。
この記事のテーマの外反母趾も、ただ親指が外に向いた単純な状態ではないのです。
現代の便利な生活によって、足の指をあまり使わない生活になり、徐々にその筋力均衡が崩れていくので、テーピングや装具、インソールを使ったからといって簡単に良くなりません。
いつも他の記事でもお伝えしている通り、やはり……
自らの筋力を養成して身体を蘇らせること
が大切なのです。
とはいっても、あまりに変形が強い場合は、足自体が動かしづらく筋力トレーニングも行いにくいです。
正しい足のアライメントでトレーニングするために、最初はサポーター系の装具などに頼るのもありです。
サポーターを付けた状態で、日常生活を送ったり、トレーニングすると徐々に自前の筋力で足を形作ることができます。
最終的には、サポーターなしで自立した足を目指します。
話が少しそれてしまいましたが、さて具体的な変形についてです。
外反母趾になりやすい理由は第1中足骨(ちゅうそっこつ)にあります。
出典:工藤慎太郎 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 医学書院
上記の図にM1M2角とありますが、第1・第2中足骨角といいます。
この角度が10度以上になると外反母趾になる可能性が高まります。
正常な状態でもご覧のように第1中足骨と内側楔状骨(けつじょうこつ)の関節面(赤い線の部分)が元々内側に向かって傾斜しているのがお分かり頂けると思います。
この部位はちょっとした切っ掛けで内反(ないはん)しやすいところなんです。元々変位しやすいということです。
内反とは、身体の中心方向に曲がることをいいます。もう一度この図をご覧ください。
出典:工藤慎太郎 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 医学書院
右の足の図を良く見て下さい。
中足骨がぐわーーーっと内側に変位してるのがよくわかるでしょう?
女性は特に元々関節が緩い傾向にあるので、ますます内反しやすくなるのです。
ではなぜ内反してしまうのか??
この関節面の安定に関わる筋の筋力不足が大きな原因です。
その筋肉とは……
- 前脛骨筋(ぜんけいこつきん)
- 長腓骨筋(ちょうひこつきん)
です。
出典:坂井建雄 プロメテウス解剖学アトラス 医学書院
見づらい図で申し訳ないのですが、足の裏から見た骨解剖です。
第1中足骨と内側楔状骨(楔状骨)のところに、この2つの筋肉が付着しているマークがついています。
しっかり関節にまたがって付着しているのがわかります。
この2つの筋肉はこんな感じで走行しています。
出典:坂井建雄 プロメテウス解剖学アトラス 医学書院
上の図は正面から見た図、下の図は外側から見た図です。(スマホでご覧の方は画像を指で拡大してみて下さい)
これらの筋は解剖図からもわかるとおり、足首をまたいで走行していますから、足首を使わないでいると弱くなります。
この2つの筋、特に前脛骨筋が弱ると、第1中足骨が内反していきます。
更に厄介なのが進行すると内反に加えて回内(かいない)という動きが入ってきます。
回内とは中心方向に回ることをいいます。
マッキーで書きました(笑)汚い絵で申し訳ございません。
この変位しやすい第1中足骨なんですが、先端に種子骨という小さい骨が付着しています。
出典:坂井建雄 プロメテウス解剖学アトラス 医学書院
二つポコッと付いてますね。ここに様々な足の内在筋が付着します。
出典:工藤慎太郎 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 医学書院
全てではないですが、こんな感じでたくさんの筋が色んな方向から引っ張り合っているのがわかります。
第1中足骨が回内してしまうと種子骨がこんな感じになります。
右足の第1中足骨を正面から見たものです。
またマッキーで書きました。下の2つの小さい丸が種子骨です。
内反して回内するんですから、ここに付着している筋肉達からしたら、たまったものではないですね。
明らかに力学的な均衡が崩れます。
詳しいメカニズムについては長くなるのでここでは割愛しますが、ここから外反母趾が始まるということを覚えて下さい。
ちなみに中足骨の内反・回内は外反母趾だけでなく偏平足などの足の障害全てに通じます。
ただでさえ、足の指を動かす機会が減っていて指は退化しています。
さらにこんな現代の生活で足首を動かさず硬くし、上記のように第1中足骨を変位させてしまってはあっという間に外反母趾になってしまいます。
この変位を食い止めることが外反母趾を防ぐ第1歩目です。足首の筋トレを開始しましょう!!
疼痛
母趾の外反変形に伴い、関節内側の関節包はいつも伸ばされた状態になります。
この状態で硬い靴やハイヒールなどのつま先の狭い靴を履い活動すると、飛び出た母趾の付け根が圧迫され、腱膜瘤(けんまくりゅう)になります。
腱膜瘤のことをバニオンなんて言い方もします。疼痛と発赤があります。
ハイヒールは最悪で、常に足首が底屈した状態になり、足首の動きを出せませんので、荷重ショックをすべて母趾の付け根で受けざるを得なく、痛みが強くなりますし変形も進みます。
サイズの合わない靴なども疼痛や変形進行の原因になりますので、しっかりと自分にあった靴を選びましょう。
外反変形が進むと、足裏の先端にある横アーチが落ちてきて偏平足や開張足になります。
ここまで来ると荷重分散ができなくなり、第2・3中足骨頭部付近にタコや魚の目ができたりします。
このような足が、片方だけに発症した場合には、身体全体のバランスが狂い、膝や股関節、腰にも痛みが起きてきます。
さらに重度になると、足の指が重なり合い、不衛生になったり、指自体が槌趾(つちゆび)といった変形をお越します。
画像引用元:フィジカルコーチング
槌指はこんな感じ。指が曲がっていますね。
曲がっているところに狭い靴などで擦れてタコができます。
足を鍛えて筋肉を叩き起こそう!!
先程も触れましたが、小手先だけの装具(サポーター)やテーピング、インソールだけを使用した対症療法だけを行っても、根本解決になりません。
このようなツールに頼りながらも足部を中心に全身の筋力を付けなければならないのです。
生活習慣病と同じです。サボっていた自分にカツを入れることが大切です。
- 足の指を使って歩いていない(ドンドンと足音がうるさい、いつも足の指が浮いているなど)
- 偏平足
- いつも重心がどちらかに偏っている(使わない足は退化する)
- いつもふくらはぎがむくんでいる膝や腰が痛い
こんなことに心当たりがある方は、カツを入れることをお勧めします(笑)
まず簡単にできることから始めましょう!!
例えば……
- 歩幅を大きくして歩く
- 指まで使って歩く
歩幅を大きくすることで、足首まで動かして歩かざるを得ないので、膝下からすべての筋肉を動員できます。
また足首が前後に大きく動くことで踵から着地でき足裏全体を使って体重移動ができますから、荷重ショックを分散できます。
体重移動が上手くいけば指先まで力が入るので、地面を掴む感覚が養われて、足の握力が上がってきます。
さいごに
足のトラブルは万病の元といっても過言でないくらいに軽視できない部位です。
ウエイトトレーニングでもスクワットやデッドリフトやランジなど全て足をしっかり地面について行いますが、足にトラブルがあるとこれらのベーシックエクササイズすら上手くできなくなります。
普段から足の指を意識して使い、自在に動かせるように訓練しましょう。
そしてストレッチング、マッサージも併用し、足部のコンディションを上げておきましょう。
具体的な足部のトレーニングやストレッチング、マッサージに関してはMRGにご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
《参考文献》
工藤慎太郎 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 医学書院 2012年