当方にパーソナルトレーニングに通われているクライアントには、いろいろな整形外科的疾患を患われている方がいらっしゃいますが、その中でも特に多いのが……
ヘバーデン結節
です。
パーソナルトレーナーという仕事をさせて頂いていると、とても遭遇率の高い疾患ではないでしょうか?
そこでこの記事では、「ヘバーデン結節」についてまとめていきます。
目次
ヘバーデン結節とは
遠位指節間関節(DIP関節)という指の第1関節に生じる変形性関節症のことをいいます。
近位指節間関節(PIP関節)という指の第2関節に同じような変形が生じることもあります。
こちらはブシャール結節といいます。
現在の医学では、加齢に伴う退行変性(老化)という考えを基本にしていますが、遺伝的要素、食事、ホルモンバランスなどの他の原因も有力視されてきています。
原因
現在の医学では、完全には原因究明できていません。
ちなみにほとんどがヘバーデン結節のみの発症ですが、20%前後が同じ指のブシャール結節の合併に繋がると言われています。
疫学的には、40代以上の女性に多く、性差はなんと……
1:10
といわれています。
圧倒的に女性の罹患率が高いのです。
しかも前述のとおり40代以降に罹患が増えるとあります。
この年代の女性といえば、女性ホルモンの減少が顕著になってくる年代です。
30代後半から女性は女性ホルモンの分泌量が下がってきますが、閉経前後の45~55才は特に急激に落ちます。
女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)は、バスト、ヒップ、肌などのハリ・ツヤや、関節や骨、自律神経の健康維持などその役割は多岐にわたります。
これだけの女性ホルモンの役割を見て頂ければ、更年期になると女性は、外見の低下や精神の不調、関節や骨に不調が出てくることに合点がいきます。
特に運動器でいうと、女性ホルモンの減少が原因の場合、ヘバーデン結節を罹患される前にまず骨粗鬆症を発症されているパターンも多いです。
男性は元々女性ホルモンが少ないのに、女性のような更年期症状が無い理由
男性の体内でも女性ホルモンは一定量分泌されています。但し女性のような閉経がありませんので、乱高下がなく、少ないながらも健康維持に必要な最低限の分泌量をどの年代においても保っているからといわれています。
上記のホルモン減少に加えて……
手指を良く使う人
も罹患しやすいといわれています。
またこちらも前述のとおり、遺伝性の例もあるので、近親者にヘバーデン結節罹患者がいる場合は、指先の使い過ぎに注意しましょう。
またその他の共通点として…
- 体型が痩せ型で筋肉量が少ない
- 長い期間運動不足であった
- アルコールの摂り過ぎ
- カフェインの摂り過ぎ
などが挙げられます。
症状
両手の複数の関節に同時に発症します。
示指から小指にかけての発症が多いですが、まれに母指(おやゆび)にも発症します。
発症した関節は赤く腫れあがり、曲がってきたりもします。
発症後まもなくは強い痛みも伴います。
関節可動域も小さくなり、握る動作が困難になります。
進行すると、関節の間が狭くなり、関節の両側方に骨棘ができて、関節部が節くれ立ってきます。
出典:臨床医学各論 第2版 東洋療法学校協会 医歯薬出版株式会社
重症の場合、側方に脱臼して指が曲がり、軽く屈曲した状態で拘縮してしまう事もあります。
また冒頭の図にあるように、関節に水ぶくれができたりしますので、ただでさえ変形と痛みで動かしにくいのに、さらにこの水ぶくれが関節の動きを制限してしまいます。
この水ぶくれをミューカシスト(粘液嚢腫)と呼びます。
診断は、第1関節の変形、突出、腫脹、熱感、疼痛の有無、X線写真で関節の隙間の広さを見たり、関節の変形の有無、骨棘の有無を確認します。
これらが認められれば「ヘバーデン結節」として診断されます。
関節リウマチとよく似ていますが、手指の変形形態は全く異なります。
関節リウマチの変形は、特徴的な変形がみられます。(スワンネック変形やボタン穴変形、オペラグラスハンド、尺側変位など)
また血液検査ですぐに判別可能です。参考までに代表的なリウマチの変形写真を載せておきます。
↑関節リウマチによる手指の変形
治療法と予防法
それぞれを見ていきましょう。
治療法
基本は手術等は選択せず、保存療法が中心です。
内容は……
局所の安静
鎮痛薬の内服頓用と外用剤の併用
局所のテーピング
です。
症状が出ているときに、指を使いすぎると変形が進みます。
できるだけ負荷を掛けた動作や可動域の小さい運動(同じ手の形が続く作業のこと)は控えましょう。
可動域を維持するためには逆に指を大きく動かす訓練も有効です。
この大きく動かすというところがポイントです。
ウエイトトレーニングなど強く握る動作は厳禁です。
また腫脹や熱感、疼痛があるのでアイシングが効きそうですが、ヘバーデン結節は冷やすと悪化します。
むしろ温めた方が良くなることが多いです。
お灸は特に効きます。
お灸した翌日は動きやすくなります。
痛みのある時に作業しなければならないときは、テーピングをして固定してあげると痛みを感じにくくなります。
巻き方はこちらを参照にしてください。
予防法
出来るだけ発症させない為に、発症前の早期段階でできることは……
- 筋力トレーニング(ウエイトトレーニング)
- 水分補給
です。
筋力トレーニング(ウエイトトレーニング)
ヘバーデン結節は、関節の変形が起きる病気です。
ということは骨の弱い人は特に発症しやすい疾患です。
ですからまず、筋力トレーニングで骨に刺激を入れることをお勧めします。筋トレは筋肉だけでなく骨もトレーニング前より強くなることがわかっています。
筋量と骨密度の増加を効率良く行えるのがウエイトトレーニングです。
長い期間、運動不足や運動していても偏った動きしかしていないと、骨を丈夫にはできません。
痩せ型の方が発症しやすいと前述しましたが、体重が軽いイコール筋量と骨量が低いということなので、関節が元気なうちに筋力トレーニング(ウエイトトレーニング)で身体を鍛えておくことは有効なのです。
また適切なウエイトトレーニングを行うと、テストステロン(男性ホルモン)の分泌が盛んになります。
特に女性は閉経期の女性ホルモンの急激な分泌低下に備えるためにもテストステロン濃度を高めておくことは重要です。
ここで疑問?なぜ男性ホルモンか?
エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンは、元々はデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)という男性ホルモンが変形したものです。
性ホルモン前駆体といって、DHEAが必要に応じて女性ホルモンになったり男性ホルモンになったりするのです。
ウエイトトレーニングはこのDHEAの分泌を盛んにしてくれますから、女性ホルモンの急激な低下を抑えて、それに伴う不快な疾患を防いでくれます。
ムキムキになっちゃうとか、男っぽくなっちゃうとかの心配はご無用です。
女性が男のようになるには並大抵の努力ではなれません。
むしろ適度にウエイトトレーニングをした方が、メリットの方が多いのです。
水分補給
まず水分調節をしている器官といえば……
腎臓(じんぞう)
です。
東洋医学でも、水は腎や膀胱と関係するといいます。
腎臓は、水分を再吸収して身体に必要な水分を残します。
水分は肌や関節に潤いを与えるのに大切な要素です。
また骨の形成に大切なビタミンDを活性型に変えるのも腎臓です。
そもそも日光(紫外線)を浴びないとビタミンD自体が形成されないので、昼夜逆転した生活などは腎臓以前の問題でもあります。
ビタミンDは小腸や腎臓でカルシウムとリンの吸収を促進したり、血中カルシウム濃度を保ってくれる為、骨の形成には無くてはならない栄養素です。
前述でカフェインやアルコールの摂り過ぎも原因とお伝えしましたが、これらは利尿作用と言って、腎臓での水分再吸収を妨げ、排泄してしまうのです。
結果水分が不足しますので、関節にはよくありません。
また腎臓のメカニズムに逆らう作用なので、腎臓に負担を掛けます。
腎機能が落ちると活性型ビタミンDの生成を妨げますから、骨量低下を招きます。
当方でトレーニングされているクライアントでヘバーデン結節を患われている方は、一様にして血圧が低いです。
低血圧の方は、体内の循環水分量が少ないことが原因です。低血圧の方も注意してください。
まずはチビチビと水分補給を始め、カフェインやアルコールの摂取を適量に減らしてみましょう。
さいごに
ヘバーデン結節についてまとめてみました。
日頃から身体を鍛えておくことと水分補給を意識してみましょう。
すでに罹患してしまった方もできる範囲での筋トレや可動域訓練、水分補給、温熱療法などを組み合わせて、これ以上悪くしないことが大切です。
是非できることから実践してみて下さい。ご相談も大歓迎です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。