世の中が便利になればなるほど、時間経過の体感スピードも上がり、それと比例して時間に追われる現代人。
年々ゆったりとした生活から程遠くなる中で、それにより社会には様々なストレスが蔓延しています。
日々情報を取るためにネットを閲覧したり、人と会ったり、休日といえど、行楽地では人ごみにもまれ、進化した交通社会による渋滞にはまり、気が休まることの方が少ないです。
そんなストレス社会日本で、健康的にそのストレスを解消し精神衛生を保つには「運動」が最適です。
この記事では運動がもたらす心理的な効果について解説します。
目次
運動によるメンタルに及ぼす効果
運動やトレーニングについていわゆる生理学的な効果や反応について注目されがちですが、精神衛生においてもしっかりとした科学的根拠があり、とても有効であるといわれています。
その主な効果は……
- 不安やうつの低減
- 認知機能の強化
です。
ただ単に身体作り、体力作りだけでなく、こういった効果があると理解しておくと、トレーニングや運動の際の力強い動機付けになります。
運動による精神衛生の科学的根拠
現代人のほとんどが、不安や何らかの気分障害を感じたことがあり、様々なストレスにさらされています。
治療が必要となるまで重症化する人も増えています。
この状態になる原因は、ストレスに対しての長期曝露です。
その防止策として、ストレスをできるだけ避けて暮らすことは当然としても、避けているだけでは、なかなかその緩和になりません。
酒やタバコなど嗜好品に逃げることも適度であれば良いことですが、度が過ぎると身体を壊します。
そこでこの記事のテーマである前述した「運動」の登場です。
特に運動の中でも、高強度のウエイトトレーニングや換気閾値内(自分の体力の限界以下)での有酸素運動は有効といわれています。
こういった運動後は、運動の苦痛や負担から解放されることや目標達成からの反動で「爽快感」が生まれます。
これは脳内に鎮痛などに働くβエンドルフィン、精神安定に重要な神経伝達物質のセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンの分泌が亢進するためです。
特にセロトニンは、快楽物質のドーパミンと闘争や逃走反応を司るノルアドレナリンの調整役なので、精神衛生上とても大切です。
セロトニンが少ないと、ストレスに対して快楽で対抗しようとドーパミンが出過ぎて興奮・依存状態(アルコール、ギャンブル、セックス中毒)になってしまったり、ストレスという脅威に反応して「闘争ー逃走反応(ウォルター・キャノン提唱)」をおこすノルアドレナリンを過剰に分泌してしまいます。
後者は特に交感神経ノルアドレナリン系といい、怒りや不安、恐怖などの感情を起こし、交感神経を刺激して、心拍数を上昇させ、心身を覚醒させますので、過剰分泌はキレやすくなったり、躁鬱などの感情の起伏が大きくなります。
エンケファリン、ダイノルフィン、βエンドルフィンは脳内モルヒネと呼ばれます。鍼灸の鎮痛効果もこのメカニズムです。
トレーニング中は運動の苦痛に対抗する為に、これらの物質で均衡を保ちますが、トレーニング・運動を終了すると、ストレスだけが消えて、これらの脳内物質による反作用が運動終了後もしばらく継続するので、爽快感だけが増すと言われています。
トレーニングした後に感じるあの何とも言えない爽快感や満足感はこれが原因だったわけです。
また、運動やトレーニングのリズミカルな動きも大きな原因といわれています。
筋肉を通じて、この刺激が脳幹に伝わり、大脳皮質の覚醒を司る部分に抑制が掛かり、不安やストレスを認知する活動が鎮静化するのではないかと推察されているそうです。
うつ病や認知症に対しての効果は?
うつや認知に関しての効果はどういったものなのかも見ていきましょう。
抗うつ効果
前述の不安や気分障害に対する効果でも説明しましたが、抗うつには脳内物質のセロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンの運動中や運動後の亢進作用が大きく貢献します。
セロトニンは先ほども触れましたが、精神安定には欠かせないものですので、どんなパターンの精神疾患においても最も大切です。
うつ症に関しては、気分が高揚してこない原因にノルアドレナリンの分泌不足があります。
ノルアドレナリンはドーパミンから作られるので、ドーパミン不足=ノルアドレナリン不足になります。
さらにドーパミン不足はパーキンソン病の大きな原因にもなりますので、運動によって分泌量を上げ、維持することが大切です。
また単純に筋力や柔軟性の向上が自信につながり、自己肯定感が高まることが抗うつ効果に繋がるとも言われています。
身体が強くなると、無力感が低下するので、高齢者にとっては特に恩恵があります。
どちらにせよ自立した生活を維持するにはトレーニング・運動は最高の薬です。
認知に対する効果
運動やトレーニングを定期的に行っている高齢者と非活動的な高齢者の血流を比較した研究があります。
前者(トレーニングを定期的に行っている)は加齢による脳への血流低下が起きにくいそうです。
これは運動による血管の新生が促進することが要因であると考えられています。
大脳皮質まで含めた神経系統への酸素や栄養の供給量の差が認知症予防のキーポイントです。
このことから血流と一定の血圧は高齢になるほど大切なんですね。
神経系統に栄養や酸素が行き渡れば、情報伝達や運動を行うためのシナプスが繋がり、脳機能も比例して高まるというわけです。
さらにラットを用いた動物実験では、活動させたラットの脳由来神経栄養因子(BDNF)が非活動的なラットよりも増加したことが実証されています。
このBDNFは神経細胞や脳細胞の健康を維持促進して、新たな神経経路(シナプス)形成や神経細胞間の連携を高めます。簡単に言えばネットワークが広がるイメージです。
これにより脳密度が高まり、特に記憶に関わる海馬(かいば)ではBDNFの増加が顕著であったと報告されています。
これは人間にも当てはまると考えられていて、このBDNFを増やすことで、脳の老化を遅らせることができると言われています。
これはアルツハイマー病や記憶障害などへの抵抗力が上がることを意味しています。
どんな運動が良い?
【血流促進】や【高強度】が精神衛生や健康のための運動にとって大切なポイントです。
ということは、大きな筋肉が集中する下半身のトレーニングがこの条件を満たしています。
ウエイトトレーニングに置き換えるとスクワットやデッドリフト、有酸素運動ではジョギングなどです。
下半身の筋肉が収縮弛緩を繰り返すことで、全身の血流が促進されます。
また認知症に関しては、違う研究で握力の維持も大切といわれていますので、ウエイトトレーニングはもってこいのメソッドです。
さいごに
ただ単純に運動器の機能維持のためではなく、うつや不安障害、認知症などの予防のためにも普段からトレーニングしましょう!
正しい運動やトレーニングは脳機能維持にもつながります。
是非とも習慣にしてみて下さい!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
《参考文献》NSCAパーソナルトレーナーのための基礎知識 第2版