手指の変形性関節症の代表的な疾患「母指CM関節症」についてです。
同じく手指の変形性関節症であるヘバーデン結節・ブシャール結節と並んで、とても罹患率の高い疾患です。
それでは早速見ていきましょう。
目次
母指CM関節症とは
そもそも……
「母指って何よ?」
「CM関節って何なのよ?」
と思う方もいらっしゃいますので、そこから説明しますと……
母指(ぼし)は俗にいう「おやゆび」です。
ちなみにひとさし指は示指(じし)、なか指は中指(ちゅうし)、くすり指は薬指(やくし)、こ指は小指(しょうし)といいます。
CM関節は「手根中手関節(しゅこんちゅうしゅかんせつ)」という関節で、手の根っこの部分の骨の手根骨と、手のひらの中の骨の中手骨をジョイントする関節です。
5本の指全てにこの関節は存在します。
以上を踏まえると「母指CM関節症」は……
おやゆびの手根中手関節の変形性関節症である
ということになります。
解剖図で部位の確認をしておきましょう。
手背側から見た図↑
手掌から見た図↑
出典:プロメテウス解剖学 解剖学総論運動器系 第2版 坂井建雄 医学書院
赤くラインを引いてあるところが母指CM関節です。
CM関節は母指から小指まですべての指に存在します。
母指以外のCM関節(青いライン)は「平面関節(へいめんかんせつ)」といって両方の関節面が平面な為、運動軸が存在しません。
よってほとんど動きが生じません。
赤いラインの母指CM関節だけ「鞍関節(あんかんせつ)」といって、関節の形状が異なります。
下図をご覧ください。
出典:解剖学 改訂第2版 全国柔道整復学校協会監修 医歯薬出版株式会社
まさに鞍(くら)の形です。
「鞍関節」と呼ばれる所以がわかりますね。
この形状のお陰で母指は、大きく開くことができたり、母指球とよばれる指のお腹の部分を他の4つの指に近づける「対立」と呼ばれる運動ができます。
要するに、良く動くということ。
これらの運動によって、物を掴んだり、つまんだり、握ったり、また離したりができるのです。
関節の可動が自由なぶん、動作も器用に行えます。
しかしながら動くということは同時に不安定でもあるのです。
ということは間違った使い方で有害な負荷を掛け続ければ、簡単に壊れる要素を持っている関節ということになります。
母指CM関節症の原因
母指のCM関節は構造上、運動軸が2つあり、他の指よりも動きやすいということをお伝えしました。
動きやすい分、関節の摩耗も激しく、長年指を良く使うような作業していると、関節軟骨というクッションの役割をする部分がすり減ってきます。
ずばり……
- 手の使い過ぎ
- 加齢
が原因です。
直接骨と骨が接触し始めると、炎症が起き、腫れなどで関節の力学的関係がさらに悪化します。
その状態を放置して、炎症状態のまま指を使い続けるとさらに変形を起こし、ひどい場合亜脱臼といって、関節が半分外れたような状態になって固まってしまいます。
この状況は瞬時に起こるのではなく、長い時間を掛けて徐々に発症します。
どの関節の変形も共通していえることですが、関節の軟骨が擦り減ることで、関節の隙間が狭くなり滑らかに動かなくなります。
すると負荷の掛かってはいけない部位(例えば滑膜など)に負荷が掛かり始め、炎症が起きます。
炎症は関節を守ろうとする反応なので、関節の液体(滑液)も増えていきます。
そうすると著しく腫れあがり、動きがさらに悪くなります。
軟骨が擦り減った部分は関節を守ろうとして骨化して硬化します。
進行すると骨棘というトゲまで形成してしまいます。
守るために頑張ってくれた結果なんですが、あまり良い頑張りではないんですね……。
ここまでくると、もうほぼ正常には動きません。痛みのレベルもかなり上がっています。
赤い関節面が関節軟骨(クッション)、赤いラインが滑膜。
出典:解剖学 改訂第2版 全国柔道整復学校協会監修 医歯薬出版株式会社
PC作業やスマホの操作、ピアノなどの鍵盤楽器の演奏、マッサージ系の仕事など指を酷使する作業は特に母指CM関節症を発症しやすいので、普段から指や手首周りのコンディション調整は必須です。
また変形が始まっても、初期段階でケアを徹底し、変形を進行させないことが大切です。
診断は他の変形性関節症と同じで、X線検査で関節の隙間や骨棘、亜脱臼の状態を確認できます。
母指CM関節症の症状
代表的な症状として……
- ドアを開ける動作
- ビンの蓋を開ける動作
で痛みを感じます。
要するに、握る、つまむなどの手の動作時に痛みが出るということです。
家事などは手指を使うことが多いので、何気ない家事動作で発症に気づきます。
関節の変形が進行すると、母指全体が白鳥の首のように変形してきて、母指が開きにくくなってきます。
母指CM関節症の治療法
こちらも他の変形性関節症と同じです。
重度でなければ「保存療法」を選択します。
鎮痛消炎剤を貼り付けたり、また内服して痛みと炎症をコントロールします。
日常生活は装具で関節を固定して極力使わないようにします。
軽度な段階であれば、装具で固定しているだけで、症状が軽快してきます。
このようなサポーターは手軽で便利です。
亜脱臼しているような重度な状態で、手を使うような業務、また力仕事を生業にされている方は死活問題なので手術を選択することもありますが、予後は良好とはいえません。
固定期間やリハビリも大変です。手術には関節そのものをボルトで固定してしまう手術と大菱形骨(詳しく前述の解剖図参照)の一部を切除して靭帯を再建する手術の2つがあります。
なによりも発症させないこと、発症しても早い段階でケアをすることが一番大切なんです。
パーソナルトレーナー、鍼灸マッサージ師としてできること
基本的に母指CM関節症の方のトレーニングはバーベルやダンベルなどの重量物を握らせないようにします。
症状がごくごく軽度であれば、細心の注意を払って、バーベル・ダンベルを必要最低限の重さ内で、前腕や上腕のトレーニングを行います。
さらに肩回り、胸郭、腰椎、骨盤、股関節回りは足先、手先にまで影響を与える部位なので、全身を鍛える様な種目を選択します。
ランジ、スクワット、デッドリフトなどのストラクチャルエクササイズを扱えるギリギリの重さで行います。
また負荷無しで指の運動(グーパー運動)を行います。可動域確保のためです。
バーベルを握れないくらい重度な場合でも、全身トレーニングは中止しません。
手に負荷を掛けないように自重でスクワットやヒップヒンジ、オーバーヘッド動作を丹念に鍛えます。
日頃から、前腕、上腕、肩、首周囲の筋肉はマッサージ、ストレッチングで柔らかくしておくことも、進行を防ぐために行ってもらいます。
痛みがひどい場合は、上肢の経絡の関連するツボ(経穴)に鍼を刺します。
鍼には優れた鎮痛効果があるので瞬時に痛みを取ることができます。
痛みの信号が消えるだけで、筋肉の緊張を取れますので痛みのコントロールは大切です。
痛みがないときはお灸の温熱効果(血行改善、造血作用、施灸部位の免疫力向上)で関節の状態を良くしておきます。
さいごに
母指CM関節症は、発症してしまうと痛みのコントロールしかできないのが現状です。
ということで早期ケアについて考えてみてください。
まずは発症させない手指のコンディション作り、また進行させないコンディション作りを大切にしましょう。
手術するような段階までいかないことが大切です。
手術したとしても上手く治るとも限りませんし……。
上記でもお伝えしましたが、手指のストレッチング、マッサージ、鍼灸、また筋力バランスを整えることはとても有効ですので、是非MRGにご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。