立ち上がりやしゃがみ込み、歩行や走行、キック動作などで股関節につまり感や痛みを感じることがあります。
また動作が無い安静時でも慢性的に重だるさや軽い痛みを感じる場合も。
この記事では、股関節周囲に発症する違和感、痛みの原因となる鑑別疾患やその解消方法についてお伝えします。
目次
股関節の違和感や痛みの原因
どんな関節も同じですが、痛みや違和感はその一点に有害な負荷が掛かりすぎてしまうことで感じるようになります。
有害な負荷といっても、強い負荷によっては一発で関節を壊すこともありますし、弱い負荷であっても日常的に掛かり続けることで徐々に関節をむしばみます。
この記事のテーマである股関節については、どちらかというと後者(弱い負荷)によって異常をきたすことが多いです。
弱い負荷の継続的な侵襲によって何が引き起こされるかというと……
- 関節の使い過ぎ(オーバーユース)
- 姿勢の乱れ(アライメント不良)
- 筋バランスの悪化(特定の筋肉の筋力ダウン)
が挙げられます。
これらの原因は密接に関係しています。以下で説明します。
関節の使い過ぎ(オーバーユース)
スポーツで発症することが多いです。
特にサッカー競技で発症することが多いといわれています。
医学的にはグロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)と呼ばれますが、ビートたけしさんのギャグ【コマネチ!】の動作で、手で示したラインの部分の痛みです。
グロインペイン症候群とは?
- 内転筋腱の障害
- 腸腰筋の機能障害
- 鼠径管後壁欠損
- スポーツヘルニア
- 外腹斜筋の腱膜損傷
- 閉鎖神経の絞扼
- 大腿骨頭寛骨臼インピジメント(股関節FAI)
これらが鑑別疾患と考えられるが、確定診断がつくまでは全てグロインペイン症候群となる。
グロインペイン症候群は、サッカー競技のように走りながらや切り返しながらのキック動作による反復的な負荷によって発症します。
本来のキック動作は上半身との連動がうまくできていれば、負荷が全身に分散し、身体はいたって健康なはずです。
ではなぜ発症してしまうかというと、サッカーの競技局面に原因があるのです。
サッカーはボールの奪い合いなので、相手選手に身体を入れブロックし、動作を妨害します。
このときに上半身の動作が制限されることが多くなり、どうしても下半身のみで蹴り出す動きが増えてしまうのです。
要は上半身との連携をとらずに脚のみで強く蹴ることにより、股関節周囲の筋肉に負荷が一転集中してしまうんです。
オーバーユースにプラスしてこのようなマルユース(間違った身体の使い方)が重なって痛みが出るようになります。
こういった症状を無視して練習や競技を続けると、痛みが慢性化して治りづらくなるので、最初に違和感を感じたら、勇気をもって休むようにしましょう。
サッカー以外ではランニングも発症しやすいです。
特にランは女性に人気があり趣味で行う方も多く、昨今女性の発症率が上がっています。
姿勢の乱れ(アライメント不良)
姿勢の乱れ(アライメント不良)は主に日常生活に原因があります。
具体的には……
- 片脚や左右一方のお尻に体重を乗せ立つ座る
- 足を組んだ状態で座る
- 立つ座ること自体が長時間に及ぶ
ような日常生活スタイルです。
良好な姿勢(アライメント)とは骨格を形成する骨の配列や筋肉のバランスによって、船のマストのように保持された状態です。
上記のような日常生活動作が、対象となる関節や筋肉に有害な負荷を集中させ、骨の配列や筋肉のバランスを崩し、良好な姿勢(アライメント)を乱れさせます。
この状態を放置すると負荷が掛かり続けた部位に違和感・痛みが出てきます。
股関節の場合、ボール状の太ももの骨(大腿骨頭)が骨盤のくぼみ(臼蓋)にきれいにはまっていることが大切です。
姿勢の乱れでこの両者の位置関係がずれてしまうと、かみ合わせに変化が生まれ、本来ぶつかってはならないのに、股関節を屈伸したときに衝突を起こします。
衝突を起こす原因は太ももの骨(大腿骨頭)前方へずれてしまうからです。
出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 坂井建雄 医学書院
このような状態を防ぐには、定期的に姿勢を変え休憩したり、普段から筋トレやストレッチングで筋肉の状態を良くしておくことが大切です。
筋バランスの悪化(特定の筋肉の筋力ダウン)
こちらも前述した【問題のある日常生活動作】が原因です。
乱れた姿勢を長時間続けていると、働き続ける筋肉とほとんど働かない筋肉が出てきます。
働き続ける筋肉は、その不良姿勢を維持するために、筋肉の長さを変えず、弱い力を長時間発揮します。
ほとんど働かない筋肉は、動作する感覚が鈍っていき、筋力が落ちていきます。
この両者の結末に共通することは……
ことです。
ちなみに一般的な筋トレは筋肉を伸び縮みさせながら強い力を発揮するので、血流が促進しむしろ柔らかくなります。
不良姿勢による筋肉の使い方だと血流が悪くなり、老廃物がたまり、結果としてカチカチに固まります。
力の発揮方法が異なるだけで、筋肉へ与える影響は全く変わってしまうんです。
このように不良姿勢を続けると、身体の正しい動かし方まで忘れ、いざ動作したときにはマルユース(間違った身体の使い方)になり、違和感や痛みが出てきます。
股関節動作のマルユースを防ぐには、まず固まった筋肉をストレッチングやマッサージでほぐすことが大切です。
血流を促進してあげてズレを是正します。
これだけでも身体は楽になりますが、ここで終えてしまっては根本解決になりません。
アライメントが一時的に良好になったら、殿筋群(お尻の筋肉群)の再教育がポイントになります。
お尻の筋肉群は前述の【ほとんど働かない筋肉】になりやすいんです。
殿筋群(お尻の筋肉群)は太ももの骨(大腿骨頭)を骨盤に引き付けて、腰回りから骨盤、股関節周辺を安定させてくれます。
この安定があってはじめて、殿筋以外の周囲筋たちの力が股関節に効率よく伝わり、スムースな動作を生んでくれるんです。
ここまでセットでリアライメント(姿勢矯正)が完了になります。
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股関節のストレッチングと殿筋群の筋トレ方法
使いすぎも使わなさすぎも、筋肉にとってダメージになり硬くしてしまうことがわかました。
硬さが違和感や痛みを生むので、これらを防ぐためのストレッチングと筋トレを紹介します。
内転筋群のストレッチング
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
座位でのパターンです。
両下肢の膝関節を伸展した状態で股関節を最大外転します。
いわゆる開脚状態です。
足先は上に向けて、膝が曲がらないように、背骨をまっすぐのまま、骨盤を前傾しながら体幹を前方に倒していきます。
上肢を前方に押し出すようにリードさせると重心が移動しやすく、うまく伸ばせます。
硬い方は、片脚だけ伸ばす方法(上図参照)を選択してください。
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
立位でのパターンです。
四股立ちの姿勢で両手を膝の上に置きます。
膝と足先の向きを一致させた姿勢で、骨盤を前傾させながら体幹を前方ではなく下方に落としていくように、手で膝を外側に押しながら開いてきます。
手の位置を下げていくほど、伸長度が上がります。(上図参照)
ハムストリングスのストレッチング
⇓
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
しゃがんだ状態から両手をついてお尻だけを持ち上げるだけの簡単ストレッチングです。
ハムストリングスだけに集中して伸長刺激が入ります。
自動運動(自ら動く)要素もあるので、ウォームアップ効果も期待できます。
膝が伸び切ったところで、腿の前(大腿四頭筋)に力を入れるとハムストリングスが相反抑制によってさらに弛緩します。
腸腰筋のストレッチング
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
伸ばす側の股関節を後方に引き、逆の脚は大腿部が床と平行になるように前方に出します。
上肢は前方の膝について身体を支えバランスを取ります。
そこから重心を下方に落として、後方の股関節をストレッチングします。
上半身を正面に向けたまま行うのがポイントです。
大腿四頭筋のストレッチング
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
伸ばす側の膝をベッドなどの台の上に乗せます。
逆の脚は前方に出し、股関節と膝関節を曲げます。
そこから股関節を伸ばしながら膝を曲げていきます。
上半身は垂直を保つと良く伸びます。
大腿筋膜張筋のストレッチング
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
立位にて、伸ばす側の脚を逆脚の後方に交差させます。
へそより上の上半身を非伸長側、骨盤を伸長側に移動させながら側屈をする。
後方の脚は内転位になり、ストレッチが掛かります。
殿筋群のストレッチング
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
ベッドの上などで、伸ばす側の脚を前に出し、膝を90度に曲げ股関節を外旋させます。
逆の脚は後方に伸展します。
そこから体幹を前方に倒します。
出典:アスリートケアマニュアル ストレッチング 井上悟 文光堂
硬い場合は上図のように、後方の脚をベッドから降ろすとやりやすくなります。
殿筋群の筋トレ方法
- グルート(殿筋)・ブリッジ
出典:自重筋力トレーニング アナトミィ ブレット・コントレラス ガイアブックス
仰向けになって、膝を直角に曲げ、そこからお尻を持ち上げるお手軽エクササイズです。
背中や腰で持ち上げないように、殿筋によって持ち上げる感覚を養うことが再教育になります。
- サイドライイング(側臥位)・クラム
出典:自重筋力トレーニング アナトミィ ブレット・コントレラス ガイアブックス
横向きに寝て、股関節を135度、膝関節を90度に曲げます。
首は床に伸ばした腕に載せます。上の腕は腰に当てバランスを取ります。
かかとを合わせて、上側の股関節を開きます。
ポイントは股関節から動くことです。膝から動いてしまうと殿筋に効きません。
また動作中に体幹が前後に傾いたり、かかとが離れないようにしましょう。
- サイドライイング(側臥位)・ヒップ・レイズ
出典:自重筋力トレーニング アナトミィ ブレット・コントレラス ガイアブックス
横向きに寝て、下側の肘で身体を支えます。
上の手は腰に当てバランスを取ります。
肩から膝までが一直線になるように意識して、上下の股関節を同時に外転させながら身体全体を持ち上げます。
トップポジションで一瞬静止したら、スタートポジションに戻り反復します。
さいごに
股関節痛に対する記事でした。
股関節の不調の原因は……
- 関節の使い過ぎ(オーバーユース)
- 姿勢の乱れ(アライメント不良)
- 筋バランスの悪化(特定の筋肉の筋力ダウン)
であり、偏った筋肉の使い方によって働きすぎている筋は硬くなり、同時に全く働かない筋肉(筋力低下)も産み出してしまうということでした。
特に働きを忘れてしまうのがお尻の筋肉です。
お尻の筋肉のおかげで股関節は骨盤の窪みに引き付けられて安定します。
ということで定期的に殿筋の筋トレを行い、常に骨盤周りを健康に保ちましょう。
違和感を感じたらすぐ着手です。痛みに変わるころには重症化しています。
また痛みが長期間続くようなら、早めに病院にかかりましょう。
「ストレッチングや筋トレの正しい方法を指導してほしい!!」という方は是非当方にお問い合わせください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。