今回はウエイトトレーニング界のツートップ?、飛車・角?、両雄?、龍虎?……双璧……、
そんなイメージのスクワット&デッドリフトにフォーカスしてみたいと思います。
目次
スクワットとデッドリフトってどんなトレーニング
超メジャー種目である「ベンチプレス」を加えて、スクワット、デッドリフトはウエイトトレーニング「ビッグ3」なんて呼ばれたりもします。
ウエイトトレーニングに励む方からしたら、「今更そんな説明いらんわ」って感じなんですが……
これからトレーニングをしてみたい方や、トレーニングを行っているが両者の違いがいまいちよくわかっていない方もいらっしゃると思いますので、基本情報をまとめてみたいと思います。
スクワット
スクワットには様々なバリエーションが存在しますが、その中でもバーベルを使った代表的な2つの種目があります。バックスクワット(BSQ)とフロントスクワット(FSQ)です。
バックスクワットとフロントスクワットには共通の基本原則があります。
その原則は、しゃがんでいく際に、バーベルの位置を常に足の中心から踵寄りに位置させることです。
次にそれぞれの種目の違いを見ていきましょう。
バックスクワット
出典:ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版 金久 博昭 ブックハウスHD
スクワットといえば、このバックスクワットをイメージしますね。
バックスクワットはバーベルを身体の後ろ側に担ぎます。この状態で基本原則である【バーベルの位置を足の中心から踵付近に位置させてしゃがむ】には、骨盤を前傾し、お尻を突き出す動作をしなければなりません。
骨盤前傾でお尻を突き出すということ、それは……
股関節の屈伸
が動作の主体ということになります。
膝関節の動員はほんの少しなので、膝関節に関わる大腿四頭筋は少ししか刺激されませんが、股関節主体なのでお尻周りの筋肉(臀筋群)や腿の裏側(ハムストリングス)などの筋肉が大きく刺激されます。
また頭の後ろ側に担ぐので、背中で充分にバーベルを支えることができることから、高重量でのトレーニングも可能です。
注意点は、股関節の筋力以上の重さを使ってトレーニングすると、必要以上に腰を反ったり、膝の屈伸が主体になってしまいます。
いいかえると、腰椎と膝関節を壊しやすいということです。
こういった間違った動作を代償動作とかトリックモーション、マルユースなんて言ったりします。
これらの怖いところは、無意識に行ってしまうところにあります。反射的な動作に近いです。
以上のことから、バックスクワットは高重量が選択できる反面、大ケガと隣り合わせの種目なので、自身の筋力レベルに応じた負荷で、正しいフォームを徹底することが大切です。
正しいフォームの中でしっかりと刺激できれば、とてつもない恩恵を身体に返してくれますよ~。
フロントスクワット
出典:ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版 金久 博昭 ブックハウスHD
つづいて、フロントスクワットです。
ストレングス&コンディショニング(S&C)の世界ではポピュラーな種目ですが、世間一般にはあまり浸透していないスクワットです。
当方のトレーニング指導の現場では、必ずと言っていいほど採用される種目です。
それほど下半身を鍛えるのに有効です。
骨盤の前傾と股関節を動員するのはバックスクワットと同じですが、バーベルを身体の前側に担ぐので、バックスクワットのようにお尻を突き出す動作を強調すると、上体が倒れてバーベルが前方に落下してしまいます。
ですので上半身はバックスクワットよりも自然と垂直に近くなります。
しゃがむ際に上体が垂直に近づくほど、お尻が引けない分、膝が前方に移動しますので、膝関節がスクワット動作に動員されます。
結論からお伝えすると、フロントスクワットは……
股関節と膝関節の協調運動
であるということです。
ここで大切なのは、最初に説明した重心です。
バーベルを足の中心から踵寄りに落とすようにしゃがみましょう。
それだけで自然と股関節と膝関節をバランスよく動員したフォームになります。
臀筋群、大腿四頭筋、ハムストリングスを満遍なく鍛えることができます。
いまいちイメージできない方は、てこの原理を思い出してもらうとわかりやすいです。
バーベルの軌道を作用線と考えるとイメージしやすいです。
バックスクワット↑
フロントスクワット↑
出典:ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版 金久 博昭 ブックハウスHD
作用線から関節までの距離をモーメントアームといいます。
このモーメントアームが長くなればなるほど筋への負荷が大きくなっていきます。
上記の写真を見てもらうと一目瞭然ですが、フロントスクワットは股関節と膝関節が作用線からほぼ同じ距離です。
このことから、お尻から大腿の筋群をバランスよく使っていることがわかります。
フロントスクワットは上体を立てるために、腰にも負担が掛かりづらく、腰痛の方にもオススメです。
デメリットもあります。
フロントスクワットの腕のポジションを【パラレルアームポジション】といい、「肘を差仕込む」なんて言ったりします。
こんな動作です。
出典:ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版 金久 博昭 ブックハウスHD
肘をバーベルの前方に出して、バーベルを自分の身体の近くに引き付けるようにして担ぐ動作です。
この姿勢をスクワット中に正確にキープするためには、上半身の筋力や柔軟性が必要です。
それらを持ち合わせていない初心者や低体力者は、この肘を差し込んだスタイルのパラレルアームポジションを取るための別のトレーニング(準備)が必要になります。
フロントスクワットはパラレルアームポジションを動作中を通してキープできないと、代償動作(トリックモーション)が発生し、身体に有害な負荷が掛かります。
ですから、初心者にはまず【クロスアームポジション】でのフロントスクワットをお勧めします。
クロスアームポジションはこんな感じ……
クロスアームポジション
出典:ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版 金久 博昭 ブックハウスHD
このスタイルであれば、上半身に求められる条件が少なくなるので、初心者でも比較的正しいフォームでトレーニング可能です。
しかしながら、どちらのアームポジションにしてもフロントスクワットは、バックスクワットよりも身体の背面の筋力を発揮しずらいので、バックスクワットよりも重量を落としてトレーニングすることがとても大切です。
正しいフォームを最優先してください。
バックスクワットとフロントスクワットの使い分け
バックスクワットは股関節主体で高重量が扱えます。
スポーツ動作では重力に逆らった爆発的な動作(ダッシュ、ジャンプ)が多く、そのためには股関節に関わるお尻やハムストリングスの力強い発達が重要になりますから、バックスクワットはもってこいです。
フロントスクワットは、膝関節、股関節、上半身(胸椎の伸展)など、身体のあらゆるところを刺激します。
ですので、身体全体のバランスを整えるに適しています。
当方のクライアントは、アスリートよりも一般の方が多いので、最初にクロスアームポジションでのフロントスクワットの習得を目指します(習得の過程は割愛)。
一般的にはフロントスクワットはバックスクワットよりも難易度が高いとされますが、実際はバックスクワットよりも習得が早い方が多いです。
最終的にパラレルアームポジションでのフロントスクワットができるようになると、バックスクワット導入も容易になります。
注意点としては、バックスクワットもフロントスクワットもフォームを誤ると、膝や腰に負担が掛かりますので、適正重量でフォーム習得に努めましょう。
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デッドリフト
お次はデッドリフトです。
こちらも様々なバリエーションがあります。
ここではそのなかでもバーベルを使ったデッドリフト(DL)とルーマニアンデッドリフト(RDL)を紹介します。
両者の共通点は、バーベルが骨盤よりも下に位置するため、重力に逆らって引っ張る感覚が必要ということです。
引く力は身体の後ろ側(背面)の筋肉や腕全体が担当します。
よってデッドリフト系のトレーニングは上半身も含めた身体全体の総合的なトレーニングなんです。
デッドリフト
出典:ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版 金久 博昭 ブックハウスHD
バーベルを持って立ち上がるイメージです。
足幅は股関節幅~肩幅の間くらいが理想です。
爪先をやや外側に向けるのがポイントです。
バーベルは足の母趾球の上にセットします。そこから尻を落としてバーベルを掴みに行きます。
グリップは肩幅より広くして持ちます。膝の外側で肘を完全に伸ばしてバーベルを握ると自動的にその幅になります。
上半身は肩の力を抜いて、首を長く真っ直ぐ保ち、背筋を真っ直ぐ保ちます。
肩甲骨をしっかり寄せて胸を張ります。踵に重心を乗せたら、頭が先に天井に着くように立ち上がります。
しゃがむときは、必ずお尻を先に落とすように動きます。
上半身の形は上昇の時と変わりません。あとはこの動作を繰り返すだけです。
シンプルな動作ですが、求められる要素は非常に多いことがわかります。
デッドリフトは上半身、膝関節、股関節がバランスよく動員されるために、フロントスクワット同様、身体全体を鍛えるのに適しています。
ルーマニアンデッドリフト
こんな動作です。
デッドリフトと比べると、股関節を強調した運動(ヒップヒンジ)であることがわかりますね。
足の幅、手の幅は前述のデッドリフトと同じです。
背筋の作り方も同じです。
これでもかと肩甲骨を寄せて下さい。
バーベルは身体にしっかり接触させるのがポイントです。
ここからお尻を後方に突き出すように股関節を曲げていきます。
お尻を突き出しながらも背筋は真っ直ぐキープです。
膝は軽く曲げておきましょう。
お尻や腿の裏側(ハムストリングス)がピーンとストレッチされたような感じが出れば上手に動作できています。
バーベルは動作中どこに位置しても、身体に接触させておきます。
股関節を効果的に使うには、これはとても大切なポイントです。
バーベルを少しでも身体から離すと、腰に負担が掛かってしまいます。
膝のお皿の直下までバーベルを下ろしたら、背筋のラインを真っ直ぐに保ちながら、後方に突き出したお尻を前方に戻しスタート姿勢に戻ります。
あとはこれを繰り返すだけです。
お尻を上下に動かすデッドリフトに比べると、ルーマニアンデッドリフトはお尻を前後に動かすイメージです。
ルーマニアンデッドリフトは背中全体の筋力とハムストリングスの筋力・柔軟性を向上する目的で行います。
デッドリフトとルーマニアンデッドリフトの使い分け
デッドリフトは動員される関節が多く、上半身も含めて総合的なトレーニングになります。
フロントスクワットに似たイメージですが、バーベルが低い位置にあるため、重心が低くフロントスクワットよりも動作が安定するので、高重量を用いて全身を鍛えることができます。
全身の筋力の底上げにはもってこいの種目です。
但しスクワット動作より下半身に依存しない動作ですので、フロントスクワットの方が脚そのものには効きます。
ルーマニアンデッドリフトは股関節の曲げ伸ばしを強調した運動です。
膝をあまり使わないため、ハムストリングスが良く働くエクササイズになります。
ハムストリングスが硬く、筋力発揮が上手にできないとしゃがむ動作が困難になり、スクワットやデッドリフトが上手に行えません。
ですのでスクワットやデッドリフトを正しく行う身体作りの一貫として用います。
また、股関節のみを動員する比較的簡単な動作なので、トレーニング初心者にも取り入れやすいです。
どちらにせよ、引く動作であり股関節伸展(ヒップヒンジ)が強く働くデッドリフト系のエクササイズは、動作を少しでも間違えると腰に負担が掛かりやすいので、スクワットと同様、適正な負荷、正しいフォームを徹底しましょう。
スクワットとデッドリフトの共通点は?
スクワットとデッドリフト(ここではルーマニアンデッドリフトは除く)の共通点はずばり……
コアエクササイズ
であるということ。
NSCAのガイドラインにトレーニング種目の分類があります。
コアエクササイズと補助エクササイズです。
コアエクササイズとは
1つ以上の大筋群(胸、肩、背部、臀部、大腿部)を動員し、2つ以上の主要な関節が関わるエクササイズ(多関節運動)で、スポーツ競技に直接的に応用できるため、エクササイズにおける優先度が高い。
補助エクササイズとは
通常小さな筋群(上腕、腹部、ふくらはぎ、首、前腕、下背部、下腿前部)を動員し、1つの主要な関節のみが関与するエクササイズ(単関節運動)で、競技パフォーマンス向上についての重要性はやや低いと考えられる。
※補助エクササイズは、特定の筋群や筋肉をねらってトレーニングしやすいため、局所の傷害予防やリハビリに多用されます。
出典:ストレングストレーニング&コンディショニング 第3版 金久 博昭 ブックハウスHD
このような分類です。
これを見ると、股関節と膝関節を動員するスクワット、デッドリフトはコアエクササイズになります。
余談ですが、巷で言われるコアは体幹という意味がありますが、ストレングス&コンディショニング(S&C)の分野では全く意味が違うので要注意です。
話を元に戻します。
コアエクササイズはスポーツパフォーマンス向上に直結するエクササイズであるということは……
機能的なエクササイズ
ともいいかえられます。
最近の言葉だとファンクショナルなトレーニングであるともいえるわけです。
これは人間として機能を高めるという意味ですので、アスリートだろうが一般人だろうが関係ありません。
誰もが実施すべきトレーニングなんです。
同じ関節が動員されることから、似たような筋肉が鍛えられるという共通点もあります。
その割合が少し違うだけで、非常に似ています。
また股関節や膝関節に関わる筋肉は大きな筋肉が多く、動作するのに大きなエネルギーを必要とします。
以上のような理由から、スクワット、デッドリフトは適切な負荷、正しいフォームで行えば、運動不足・筋力不足解消にはもってこいなんです。
スクワットとデッドリフトの違いは?
色々なトレーニング分類がありますが、両者を異なるジャンルに分類する方法として、スクワットはプッシュ系、デッドリフトはプル系として表現することがあります。
スクワットはバーベルを担いでいる為、下半身全体を使って立ち上がることによりバーベルを上方に挙げていきます。
このことから、スクワットは下半身全体が主役になるので、股関節と膝関節が両者ともに良く動くということです。
身体の使い方としては下半身全体を伸ばして床に押し込む感覚です。
また腕や肩でも押す方向に少し力を発揮します。
スクワットの力発揮の方向
それに対してデッドリフトは、バーベルの位置が低く、自然と床から引く形になります。
その為、膝関節の関与が減り、股関節を強力に伸展させる必要があります。
また引く動作は股関節だけでなく背中の筋力も重要です。
さらに背中を活かして引くためにはバーベルをしっかり握る為の前腕屈筋群や手の掌側(手のひら側)の内在筋の筋力も必要になります。
デッドリフトの力発揮の方向
以上のことから、スクワットは脚全体の強化、デッドリフトは臀部やハムストリングスなどの股関節の伸筋、背筋群、前腕などを強化します。
こういった特徴を理解して、自分の身体には何が必要かを考えて、どちらを重視するか、はたまた同じバランスで取り入れるかなどを考えてみましょう。
さいごに
スクワットとデッドリフト、甲乙つけがたいというより、どちらもとても大切なことがお分かり頂けたかと思います。
記事の中でも、ちょこちょこと触れましたが、効果が高い分、一歩間違えると有害な動きを誘発します。
自分のレベルに見合った重量でトレーニングしましょう。
必ず良い効果が還ってきますから。
それぞれのフォームなどさらに細かいポイントや上手に行うためのコツなんかは、また別の記事でアップしたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。