トレーニングしようと志すキッカケのひとつとして、「腹筋をカッコよく割りたい」というのがあります。
それくらい、老若男女問わず引き締まった割れた腹筋というのは憧れの的。
この記事では、腹筋をカッコよく鍛え上げるための効率の良い方法をお伝えしていきます。
目次
腹筋の解剖・構造
腹筋はミルフィーユ状に何層にも分かれています。
まずこの事実を知らない方も多いので、解剖図を見て理解を深めましょう。
画像出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 坂井建雄
いわゆるシックスパックで有名な鍛えることでボコボコと割れる部分を腹直筋といい、1番表層の筋肉です。
その下の層には、外腹斜筋という側腹部に斜めのスジが入る筋肉があります。
次の層は内腹斜筋、1番深い4層目に腹横筋があります。腹横筋はお腹全体を覆うコルセットのような筋肉です。
この奥に内蔵があり、またインナーマッスルというワードで一世を風靡した大腰筋も内蔵の傍らに存在しています。
この中で腹横筋は特に重要な役割を担います。
腹横筋の重要な役割
腹横筋はお腹や腰周りの姿勢維持に大きな役割を果たします。
いいかえると、ウエスト周りの形を作り上げている筋肉であるといえます。
画像出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 坂井建雄
腹横筋にしっかりと筋力があると、ポッコリとお腹がせり出してくることはありません。
お腹を締める筋肉なので、内蔵も持ち上がり、内蔵の健康にとっても大切な筋肉であるといえます。
内臓は下がってしまうと、上図の空間(腹腔)の底の方で内臓同士で押しつぶしてしまうので、内臓を取り巻く血管やリンパ管は狭窄してしまい、温かい血液が来ないので冷えていきます。
内臓に新鮮な血液も来なくなるので、機能も落ちてきます。
また、熱を発生させる筋肉自体が少ないので、身体が温まりません。
以上のことから、しっかり腹筋群、特に腹横筋を鍛えあげることが、健康への第一歩です。
また、腹横筋がしっかりと機能すると、胴回りを締め付ける力が働くようになり、その反作用でお腹の中から押し返す力が生まれます。
これを腹腔内圧といいます。
画像出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 坂井建雄
お腹を膨らませる力が強くなるため、ビール腹のようなだらしない太い胴回りではなく、いい意味で胴回りが太くなり、体幹がどっしりと安定します。
腹横筋が発達して強くなると腹圧が上方や下方に逃げます。そこで横隔膜が上方から、骨盤底が下方から圧の押さえつけに関わります。
これで腹腔は反作用で全方位に内圧を高め、天然のコルセットが完成します。
ぎっくり腰によくなる方や慢性的な腰痛がある方は、この天然コルセットが機能していないことが多いです。
腹筋を鍛える基本事項
ボコボコのシックスパックを目指して、腹筋運動をするなら、前述の理由から腹横筋もまとめて鍛えてしまいましょう。
鍛え方は簡単です。
通常の各種腹筋運動(クランチ、シットアップ、レッグレイズなど)をする際に、呼吸を大げさに行えば、腹横筋がガンガン働きます。
腹横筋を含めた腹筋群は、呼吸補助筋ともよばれ、自然な呼吸ではなく、意識的な呼気のとき(努力して息を吐き出すとき)に総動員されます。
呼吸補助筋であるがゆえに、腹筋が弱い人ほど吐くことが上手くできず、息が止まりやすいので、まず呼吸を止めないでできる可動範囲で、丁寧にトレーニングしてみましょう。他の種目以上に呼吸が大切という基本を忘れないように!
コツは息を長く吐き出しながら、上体を起こしたり、脚を持ち上げます。
ただなんとなくトレーニングするよりも、何倍も効くのが体感できます。
腹筋をさらにかっこよく仕上げるのに必要なこと
お腹にシャープな印象を持たせるためには、ただ単にシックスパックを形成するだけでは仕上がりません。
前述の腹横筋や腹直筋は人間が立つ・歩く・走るなどの動作をするときに、いち早く収縮し、体幹を安定させ、末端の腕や脚を動かしやすくしてくれます。
それゆえに、比較的無意識でも活動的な筋肉なのですが、腹筋群の中でも意識的に使わないと働かない筋肉があります。
それが……
腹斜筋群
です。
当方所属のパーソナルトレーナーがフィジークに出場した時の写真です。
シックスパックの横に斜めに走行する筋肉が見えますね。
外腹斜筋といいます。
その下の層には、逆の走行で内腹斜筋が存在します。
あわせて腹斜筋群といいます。
ここが発達してくると、さらに引き締まった印象を与えます。
画像出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 坂井建雄
この腹斜筋群、どんな役割をするかというと、体幹をひねる・よじる動作です。
前述しましたが、ヒトが動作する際には、優先的に腹横筋・腹直筋が使われます。身体を前に倒す(屈曲)がその仕事です。
このときに腹斜筋が働いて硬くなると、スムーズな屈曲ができなくなります。そのため、補助程度にしか働かなく、意識しないとあまり使われない筋肉になってしまいます。
鍛え方は簡単です。
通常の腹筋運動(クランチ・シットアップ)時にひねり動作を加えるだけです。
これにプラスして息を吐きながら行えば、腹筋全てを使うことになります。かなりきついエクササイズになり、一石二鳥どころか四鳥(腹直筋、腹横筋、外腹斜筋、内腹斜筋)です。
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腹筋と背筋のバランスについて
筋肉というのは必ずペアで存在します。
専門用語で「拮抗筋(きっこうきん)」といいます。
筋肉というのは常に張力が発生するため縮もうとする習性があります。
いいかえると、筋肉自身は縮むことしかできません。
伸ばすには誰かの力を借りなければなりません。
そんな時に活躍するのが、拮抗筋です。
身体の中で有名な主働筋と拮抗筋は……
大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)とハムストリングス(太ももの後側の筋肉)
上腕二頭筋(二の腕の前側の筋肉)と上腕三頭筋(二の腕の後側の筋肉)
です。
拮抗筋によって、船のマスト(帆柱)を立てる為の引っ張り合うロープのようにバランスを取っているんです。
上記の例でいうと、大腿四頭筋は膝を伸ばす筋肉で膝の伸筋といい、ハムストリングスは膝を曲げる筋肉で膝の屈筋に分類されます。
ちなみに上腕二頭筋は肘を曲げる屈筋、上腕三頭筋は肘を伸ばす伸筋です。
一般の人のほとんどは伸筋の方が屈筋よりも発達しており、差がある人で2倍くらい筋力が違います。
スポーツでは、ジャンプやダッシュ(スプリント)などの動作が多く、股関節や膝関節をグンと力強く伸ばすので、伸筋が強すぎると、屈筋のハムストリングスに多大な負荷が掛かります。
ハムストリングスの肉離れの原因は、この筋力バランスの差によって起こることが分かっています。
大腿四頭筋の7割くらいの筋力を付けておくと、障害が防げるようです。
この理屈は今回の記事のテーマである「腹筋」も同じです。
マスメディアでは腹筋を鍛える映像がよく映し出されていますが、腹筋系のエクササイズばかりやっていると、腰痛や腰の器質的疾患を患うことがあるので、拮抗筋である「背筋群」も鍛えましょう。
ただし、背筋は伸筋に分類されるので、基本的には強いです。腹筋の方が弱くなりやすく日常で使われにくいので、腹筋だけを適度にトレーニングするだけでもバランスが取れるといわれています。
腹筋運動のレベルが上がってきて、強くなってきていたら前述の理由から要注意です。背筋の方が弱くなっているかもしれません。
さいごに
腹筋とひとくちにいっても、様々な筋肉があり、それぞれの役割や重要性があることをお伝えしました。
この記事をまとめると……
- 呼吸によって腹横筋を使うことを意識する。
- 引き締まった印象を与える為に、腹斜筋群を個別に鍛える(意識的に鍛えないと発達しない)。
- 腹筋群だけに偏らず、拮抗筋である背筋群を鍛えてバランスを整える。
以上を抑えた上で、無駄なカロリー摂取を控えることで、腹部の脂肪が落ち、ボコボコに割れたカッコイイ腹筋を作ることができます。
また、腹部が強くなると、前述した腹腔内圧(腹圧)が高まり、高重量のスクワットやデッドリフト、パワークリーンやパワースナッチなどのクイックリフトにも好影響を与えます。
いいこと尽くしで、鍛えない手はないです。
是非、取り組んでみて下さい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。