「ストレッチ(ストレッチング)」についての記事です。
ストレッチといえば「柔軟性向上」のために行います。
ストレングス&コンディショニング(S&C)においても柔軟性は重要な体力要素のひとつです。
身体活動に先立って行われるウォームアップやトレーニング後などに行われるクーリングダウンを利用して「柔軟性」を高めることは、正常関節可動域を維持し、非効率な動作を排除し、筋損傷や関節の障害を防ぐためにも大切な要素です。
そんな柔軟性を高める方法のひとつストレッチングを紐解いていきます。
目次
柔軟性とは?
身体に関わる仕事(治療家やトレーニング指導者)をなさっている方は、クライアントの「柔軟性」という体力要素を高めるということにプライオリティを置いていると思います。
なぜこの「柔軟性」を重視するかというと……
- 傷害(ケガ)の可能性を減らすため
- 動作能力を高めるため
です。
いいかえれば……
「柔軟性」を高める=トレーニング・スポーツ・日常生活での動作パフォーマンスの向上や傷害の危険性を低下させるために、参考可動域という正常な関節可動域を維持、そしてその可動範囲全体で自由に動作ができる関節の能力を高めていくともいえます。
つまり、ただ単に柔らかければ良いのではなく、その柔らかさの中で円滑に動かせる筋力も必要であるということ。
柔軟性を高めるというと、前者ばかりに意識がいきがちですが、「円滑に動かす筋力」までを身に付けてはじめて本当の柔軟性になるということなんです。
ここで「静的柔軟性」と「動的柔軟性」という考え方がでてきます。
静的柔軟性
一般的に「柔軟性」といわれているのが、この「静的柔軟性」です。
単純に関節の可動域を指します。開脚などがいい例です。
可動の限界まで他動的に動かして、その状態でストップするストレッチングを「静的ストレッチング=スタティックストレッチング」といいます。
ここでの柔らかさが動作時の最大可動範囲になります。
特にスポーツは身体を大きく動かすことが多いので、この「静的柔軟性」が大きいと有利です。
この可動範囲をめいっぱい動作時に使えるかどうかは自身の筋力に依存します。
筋力が無ければ可動範囲を有効に使えません。
この可動範囲内を円滑に動かす能力を以下で説明する「動的柔軟性」といいます。
動的柔軟性
前述したとおり、静的柔軟性の可動域内を円滑に動かせる能力を「動的柔軟性」といいます。
静的な可動域を使って、スムーズで効率の良い動きを獲得するには、関節を動かすための筋力とその筋力を統合するコーディネーション力が必要です。
動的柔軟性の獲得には、「ウエイトトレーニング」や「動的ストレッチング=ダイナミックストレッチング」が有効です。
この「動的柔軟性」が高まって初めて、日常生活動作やスポーツ動作が変わってきます。
静的柔軟性と動的柔軟性の差
この両者を高めることは身体の調整においてとても大切なのはいうまでもありません。
実際のトレーニング指導で出会う方のパターンは……
- 静的柔軟性=動的柔軟性(両者ともに硬い)
- 静的柔軟性>動的柔軟性
- 静的柔軟性<動的柔軟性
です。
1の方はある意味でバランスが取れています。
小さい可動域内に見合った筋力しかないので、身体は動かしづらいですが、大きなケガのリスクは低いです。
2の方は女性に多いです。
静的(他動的)な可動域はかなり広く良く動きますが、動的な能力(筋力)が低いため、動きすぎる関節をコントロールできません。
例えばスクワットで腰が反りすぎたりなど不安定性や動揺性が目立ちます。
3の方は男性に多いです。
身体は硬いのですが、筋力がある為、静的な関節可動域を超えて無理やり関節を動かせてしまう事があります。
2と3のかたは間違いなく関節や筋、腱、靭帯などの軟部組織に負担が掛かるのは容易に想像できますね。
以上のことから、筋力と柔軟性は切っても切れない仲なのはお分かり頂けたかと思います。
トレーニングといえば、筋力だけを鍛えることに意識が向きがちですが、「柔軟性」にも意識を置いて初めて総合的なエクササイズプログラムになります。
ストレッチングもトレーニングの一貫であるということです。
柔軟性に影響を及ぼす因子
「柔軟性」に影響を及ぼす因子には様々なものがあります。
関節の構造
各関節で構造が異なりますので、関節によって可動域が全く違います。
また骨格の形状にも個人差がありますので、必ずしも参考可動域にならない場合もあります。
よって身体全体の柔軟性ととらえずに、個人差や個々の関節で評価することが重要です。
筋と結合組織
静的可動域での柔軟性の個人差は、関節にまたがって付着している筋や腱の弾性が主な要因です。
もう少し踏み込んでいうと、「結合組織」と呼ばれる(靭帯、腱、関節包)と筋繊維を包む筋の内膜や外膜の弾性で「静的柔軟性」が決まります。
ここが硬いと可動域が狭くなり、逆に伸展性があると大きな可動域になります。
様々な影響因子の中でも、この筋・結合組織は「柔軟性」に大きな影響を及ぼします。
この部分の弾性はストレッチングトレーニングで高めることが可能です。
静的ストレッチングで筋をある程度伸展させると、筋の張力が低下し「張り」が消失します。
この効果は90分以上持続されるといわれています。
長期的な柔軟性を獲得するためには、週3回くらいの頻度で継続することが大切です。
筋力の維持と同じで継続が大切なんです。
関節弛緩性
個人差の大きい因子です。
とくに生まれつき関節が緩い組織構造を持っている人は注意が必要です。
過度に伸びすぎてしまうと、身体を壊す可能性があります。
ウエイトトレーニングやストレッチングの指導を受ける場合にも、必ず医師の診察をうけて許可をとってからにしましょう。
年齢
筋と結合組織の次くらいに影響を及ぼします。
幼年期は筋の弾性が一番高く身体が柔らかすぎる為、あまりストレッチングは必要ないです。
思春期に入ると幼年期の柔軟性は消失しますので、ここからストレッチングトレーニングを開始するのが理想です。
性別
男女で比較すると圧倒的に女性の方が柔軟性が高いです。
この傾向は小学生から現れ、成人しても続き、その差は顕著になります。
性ホルモンの分泌量の違いや関節構造の解剖学的な差異が柔軟性の差を生みます。
部位別には体幹と股関節と足関節で大きな差が生まれるといわれています。
男性は身長や筋力が高いので硬くなりやすいといわれます。
温度
深部体温と外気温の影響を受けます。
両者が高いほど、関節可動域にとって有効に作用します。
このことからトレーニング前のウォーミングアップが重要であるといえます。
活動レベル
身体活動の活発な人とそうでない人の比較では、前者の方が柔軟である傾向がつよいです。
非活動的な人は可動域が狭い活動しか行わないので、結合組織や筋が錆びついていきます。
また体脂肪の付着により動作を妨げることも要因のひとつです。
間違ったウエイトトレーニング
正しい健康を目指すウエイトトレーニングというのは、「可動域全体を使った動作」が主です。
高負荷になるほど、可動域が狭くなってきますが、重さばかりを追求して、フォームを度外視した中途半端な可動域のトレーニングは柔軟性を低下させることがわかっています。
そのためにもギリギリ正しいフォームを維持できるなかでの高負荷を選択し、トレーニングしていくことが重要です。
また正しい動作や姿勢をキープするためには、主働筋や拮抗筋のバランスも重要になるので、トレーニングを行う際は全身性の原則に則って、偏りなくバランス良く筋を発達させ、すべての関節を自在に動かしたり安定させたりできる状態にすることを目指しましょう。
柔軟性を高めるトレーニングの組み込み方
ここまでで、「静的柔軟性」と「動的柔軟性」の両者を高めることが大切ということがわかりました。
筋力を高める「ウエイトトレーニング」や全身持久力を高める「有酸素運動」にプラスして、この両者を高めるエクササイズをウエイトトレーニングや有酸素運動前後に挟むような形の総合メニューがお勧めです。
「動的ストレッチング」は実際のスポーツやトレーニングの動きのパターンに似せて行います。
最初は反動をつけずにゆっくりと動作を開始し、最後は反動動作を伴う「バリスティックストレッチング」などで実際の動作に近いスピードで行います。
ここでは生理学的な説明は省いて簡単にいうと、これらを行うことで筋が目覚め、力を発揮しやすくなり、コーディネーション能力が引き出されます。
運動に適した状態になるので運動前やトレーニング前に最適です。
「静的ストレッチング」は柔軟性のベースとなる関節可動域を広げることが目的です。
特に腱や靭帯は筋と違って柔軟性がキープされますので、定期的に行うことで長期的に柔軟性が増してきます。
筋は弾性作用が強いので時間と共に戻りますが、腱や靭帯は可塑性が高いため一度伸ばすと戻りにくいためです。
その証拠に捻挫などで急激に伸ばされた靭帯は長さが戻りませんよね。
ということで過度な強い静的ストレッチングは靭帯や腱や靭帯が必要以上に伸びてしまうので、痛みを感じない程度の強度で行いましょう。
特に「静的ストレッチング」は筋の温度が高い時でないと効果がありませんので、早朝の身体が一番硬く体温の低い時は軽めに行い、メインは深部体温が最大限までに高められている有酸素運動やウエイトトレーニング後に行いましょう。
痛みを感じるところまで伸ばさず、わずかに張りを感じるところで静止し、15~30秒くらい伸ばしましょう。
あまりにも硬い場合は、最大可動域の60%→80%→100%と段階的に伸ばすと良いでしょう。
さいごに
「ストレッチ(ストレッチング)」も立派なトレーニングであるとお分かり頂けたかと思います。
どちらのタイプも筋肉の温度が高い時に行うことが大切ですので、ウォームアップをしっかり行いましょう。
温かいシャワーやお風呂の後でもいいですし、軽いウォーキングやジョグのあとでもOKです。
必ず身体を温めて一汗かいてからスタートしましょう。
ウエイトトレーニングと同じで、「柔軟性」の獲得と維持のためには継続が必要不可欠です。
「筋力」の向上と同じくらいの意識を持っていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。