「バランスボール」や「バランスディスク」に代表される不安定性トレーニングツールについてです。
スタビリティボールなんて言い方もしますが、その利用率は数年前のブームに比べれば落ち着いてきましたが、今も根強い人気のトレーニングツールです。
しかし、その利用方法を見聞きしていると、バランス系ツールの実際の効果や研究結果に沿った利用ができているかは微妙なところです。
目次
バランス系トレーニングツール誕生の経緯
元々は、理学療法から生まれました。
神経系の障害のある子供用に利用されたのがはじめてのようです。
脳性麻痺の子供などの運動療法では特に活躍しました。
そこから現在では腰部の疾患を患う方のリハビリテーションで使われたり、ケガをして健常でなくなったアスリートのリハビリにも使われます。
リハビリの現場から生まれたこれらのツールは、いつしかブームに乗って、フィットネス施設や学校の体育授業、高齢者施設にまで広がり、その利用率は大幅に向上しました。
元々の利用動機は体幹部分の神経系改善、動的バランスの向上、脊椎の安定化です。
簡単にいうと体幹部の強化、腰部のケガの予防が主目的でした。
現在では一般的な利用が広がったことと相まって、ウエイトトレーニングやマシントレーニングなどのベーシックな筋トレと同じように、全身を鍛えるようにメニューが組まれています。
バランスボール・バランスディスクの間違った利用法の横行
前述のとおり、バランス系トレーニングツールは理学療法から生まれたわけですが……
「理学療法から生まれたものである」ということを忘れている方が多い気がします。
ていうより元々知られていない??
理学療法とは……
- 何らかの身体の障害を有する人に対して
- 運動療法やマッサージなどの物理療法を用いてリハビリテーションを行い
- 運動機能を回復、再教育すること
と定義されます。
障害のある人は、疾患によって神経伝達能力が著しく低下していることが多く、身体を自由に動かせません。
このような方にいきなりウエイトトレーニングなどの高強度運動は難しく、健常者にとっては簡単に感じる「身体を安定させる、姿勢を維持する」などの小さな力発揮ですら、大変困難なことなのです。
少し不安定なサーフェスを作ってあげて、そこでキープしたりするだけでも大変な過負荷になります。
以上のことから、どこにも障害が無い健常者がこぞって筋力を付けよう、筋肉を育てようと躍起になってこれらツールと延々と格闘している絵はやはりどこかおかしいのです。
トレーニングの原理原則からみても効率が悪すぎるのです。
研究結果から見えてくるバランス系トレーニングツールの利用方法
様々なメディアでは、健常者が用いても「バランスボール」「バランスディスク」などのツールを使ったエクササイズの効果は、姿勢維持の筋力を上げ、体幹の強化に適していると報じています。
しかし、健常者を対象にした不安定トレーニングツールの研究はというとその数は少なく、複数存在する研究結果も賛否両論で安定していません。
ちなみにウエイトトレーニングに代表される「ストレングストレーニング」においては、筋力向上、筋量増加、神経系改善、柔軟性向上において様々な研究結果で一致しています。
現時点で言えることは……
賛否を含めたこれら研究結果と理学療法で使われてきた経緯を加味して考察
することが重要です。
まず、理学療法で使われてきたということ。
その主目的が脊椎のコントロール、いいかえれば安定性の強化のための筋と神経の再教育。
これらはきわめて小さい力での制御です。
このことから健常者に用いる場合は……
- ウエイトトレーニングの初期段階における脊椎の安定性の練習のために利用する
- 著しい低体力者の初期のトレーニングで利用する
- 慢性腰痛の方のコンディショニングの一貫として利用する
ことが望ましいと思われます。
1の理由は、ウエイトトレーニングでスクワットやデッドリフトなどの重要なエクササイズを行う上で、脊椎の正しいカーブを維持して動作することが重要だからです。
スクワット等で体幹筋の制御が上手くいかない方に、ウォーミングアップをかねて、バランスボール上のアブドミナルカールアップやバックエクステンションなどを行い、体幹筋群への神経伝達効率を上げておくことを目的とします。
2の理由は、障害があるわけではないが、筋量や筋力が著しく低下している方に基礎的な姿勢維持の筋力だけでも向上させるのに使えるからです。
実際パーソナルトレーニングでこういった方から指導依頼をお受けすることもありますが、身体を動かすこと自体が大変なくらい筋力が落ちています。
ベーシックなストレングストレーニングに進むためのプレトレーニングの位置づけです。
3の理由は、体幹の持久力不足が慢性腰痛を引き起こすからです。
姿勢維持筋にフォーカスできるバランス系ツールのトレーニングは、遅筋繊維が高い割合で動員されるため、持久力の向上が見込めます。
MRGでも腰痛で悩むクライアント様にウエイトトレーニング実施日以外の日に、ストレッチングなどと混ぜてコンディショニングの一貫として簡単なバランスツール系エクササイズを行ってもらっています。
スポンサーリンク
バランス系トレーニングツールをアスリートが使用する場合
アスリートを対象とした研究に関してその数はさらに少なくなります。
しかもその研究結果は、バランス系ツールを用いたトレーニングでバランスボール上での体幹の安定性は向上しましたが、競技姿勢の向上は起きず、競技動作のパフォーマンス向上も科学的には実証されていないものがほとんどです。
競技動作となると、ストレングストレーニング以上に、突発的な動きや瞬発的な動きも多く、腹臥位や仰臥位でゆっくり行うバランスボール等のトレーニングの効果はなかなか競技動作に転移しにくいのです。
結局は動作様式の特異性に依存するので、その競技動作に近い方が良いです。
例えば、乗馬やサーフィン、ホッケーやフィギュアスケートなどの不安定なサーフェス上での競技には、バランスボール系のエクササイズはある程度は有効です。
メインのトレーニングの中にも組み込んでも良いでしょう(全てバランス系にするのはNG!)。
しかしながら、一般的な安定した地面で行う競技であれば、ウエイトトレーニングでのスクワットやデッドリフトの方が立位での動作であるし、神経筋系への刺激が強く、パフォーマンス向上の観点から見てもこちらを優先すべきです。
もしバランス感覚を向上させたいのであれば、これらのベーシックストレングスエクササイズを発展させて、ダンベルやケトルベルを利用した片脚でのスクワットやデッドリフト、片腕でのパワークリーン、プッシュプレスなどに移行する方が不安定サーフェス上でのパフォーマンスアップにはよほど効果があります。
どんな競技であってもそのパフォーマンスを上げるには高い筋力が必要なのです。
筋力を高めるためには、最低でも最大筋力の80%くらいの負荷が必要なのです。
バランスボールやディスク上では到底そのような負荷は扱えません。
バランス系ツールのエクササイズで遠回りをする必要性が全くないわけです。
以上のことからメインのトレーニングは間違いなくストラクチュラルエクササイズ(構造的エクササイズ)とよばれるスクワットやデッドリフトにすべきです。
「いやいやそれでも、どうしても取り入れたい!」という熱い想いがあって、これらをもし利用するのであれば……
まず大前提として、
バランス系ツールを使ったエクササイズは
元々リハビリから生まれたものなので
筋力向上の効果は乏しい
ということを理解すること。
そして、そのうえで……
- 小脳や前庭系、脳幹にある姿勢制御機構の活性化
- 筋や腱に備わる固有受容器の活性化
だけをねらって、身体が温まっていない段階で、ウォーミングアップの一貫として、これらバランス受容器を刺激する使い方をすることを意識しましょう。
わかりやすく言い換えると、バランス系ツールでバランス感覚を制御する各器官の活性化だけなら可能であるということです。
バランスに関わる受容器を刺激することで、メインのウエイトトレーニング、競技練習での姿勢の不制御による転倒や傷害を防止できます。
負荷も軽いので、回数を多めに設定して各動作を流れるように行えば、筋温の上昇も見込めます。まさにウォームアップにもってこいですね。
ただし、複雑な動作もあるので、いきなりのウォーミングアップには使わず、まずは早歩き、ジョギング、階段昇降なので身体を温めることをお勧めします。
そこから段階的にバランス系ツールのエクササイズをウォーミングアップの一貫として組み込むと安全です。
さらに、ウエイトトレーニングなどでしっかり鍛えられた人でも、バランス系エクササイズの導入初期は難しく感じることが多いので、専門家に正しいテクニックをしっかり教わってから導入する方が安全で効果的です。
さいごに
完全に否定するわけでもなく、おおいに勧めるわけでもない感じで曖昧ですが……
私個人の感覚ではありますが、たしかに高重量のスクワットの前に、片脚でバランスディスクに30秒間乗ってからスクワットを開始すると、下半身の固有受容器が刺激されたせいなのか、下半身が安定しているような感じがします。
このように、いろいろなトレーニングツールには必ず目的があるので、やみくもに導入するのではなく目的に沿って使用しましょう。
またパーソナルトレーニングでこういったツールを使うときも、必ず担当のパーソナルトレーナーになぜこの局面で使用するのかなどを訊ねてみましょう。
必ず意味や効果を明確にしてトレーニングをすることが大切です。
追伸的に……
バランスボールは、体格によってボールのサイズが異なりますので注意しましょう。
ボールに座った時に大腿が床に対して平行くらいの大きさになるようなサイズを推奨します。
エクササイズのセット数やレップ数は、遅筋という赤い色をした持久力に富んだ筋肉が対象なので、15回以上の高回数で行いましょう。
セット法でも良いし、サーキット形式でもどちらのタイプにも適応可能です。
バランス系トレーニングツールを上手に利用して、メイントレーニングの効果を上げていきましょう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。