トレーニング前や運動前に行う「ウォームアップ」についてです。
ウォームアップというと、「ただなんとなくストレッチングをして……」みたいなイメージがありますが、行うにあたってその科学的根拠を理解していないと何を行っていいかわからず、結果としてメインの運動やトレーニングの効果を半減させてしまいます。
そんなわけで、科学的根拠を理解していただき「正しいウォームアップ」が行えるように記事にします。
目次
ウォームアップの定義
それなりに強度の高い運動や柔軟性エクササイズ(静的ストレッチング)を行う前に、ある一定の形式に沿った準備運動や動作を行うことを「ウォームアップ」といいます。
ストレッチング(特に静的ストレッチング)をそのままウォームアップに使う人も多いですが、文字通り「ウォームアップ」なので筋肉だけでなく身体そのものを温めなくてはいけません。
ストレッチングだけでは筋肉も身体の温度も上がりません。
しっかりと……
- 筋温
- 深部体温
の両者を高めることが大切です。
ウォームアップの生理学的意義
上記で示したように、「ウォームアップ」は運動やトレーニングセッションの基礎となるべきものです。
「ウォームアップ」は肉体的な準備は当然のこと、精神的にも交感神経へのシフトがしやすくなり運動に適した状態へもっていけます。
特に高い目標を設定した運動・トレーニングセッションでは集中力も必要になり、その目標達成のためにはとても重要です。
ウォームアップの効果
適切なウォームアップによって深部体温の上昇が起こります。
これによる恩恵は……
- 筋への血流量増加
- 神経系(受容体)の感受性上昇
- ヘモグロビンとミオグロビンが酸素を組織に渡しやすくなる(酸素解離の促進)
- 筋の粘性低下(良く伸びるようになる)
- 代謝の促進(疲れにくい)
能動的なウォームアップを始めると、筋が収縮や弛緩を繰り返すために、フィラメント(筋原線維)の滑走が起こります。
このときの摩擦熱で筋肉の温度が上昇します。
これにより徐々に深部体温が上がり、血液の温度が上昇、血管拡張により酸素の運搬効率も上がります。
併せて呼吸器も活発に動き出すので、酸素の運搬率はさらに向上します(ヘモグロビンやミオグロビンの酸素解離が向上)。
血液中のヘモグロビンが肺から酸素をもらい結合します。血流に乗って組織に到着し酸素を受け渡します。
組織が筋であればこの受け取った酸素を筋肉中のミオグロビンと結合させ、必要に応じて酸素を使います。
ヘモグロビンとミオグロビンは体温が上がらないと酸素を離してくれません。
ですからウォームアップを行わないで、冷えた身体でいきなりメインの運動を行うと、酸素を使ってエネルギーを回復できないのですぐに疲れます。
温められた筋は伸び縮みしやすくなり、動作スピード、可動域、筋力が向上します。
可動域に関しては、深部体温の上昇と共に筋だけでなく腱、靭帯の粘性も低下するため大きく広がります。
粘性が低下する=伸縮力が増すので、筋、腱、靭帯の不意のケガを防止するのに大きな効果を発揮します。
以上のことから、静的ストレッチング(スタティックストレッチング)では、受動的な活動のため、筋のフィラメントの滑走幅は少なく摩擦熱が生じないために体温の上昇が少なく、エネルギー代謝率(酸素解離の上昇)も上がりません。
上記でも示したとおり、ある一定の形式に沿った準備運動や動作を行うことが大切なのです。
ウォームアップの種類
では、ウォームアップにはどのような方法や種類があるのかについて見てみましょう。
受動的ウォームアップ
- 温シャワー、入浴
- ホットパック
- マッサージ
利点は、メインの運動やエクササイズの前に疲労しないことです。
自身で身体を動かす必要が無いために、最小限の努力で体温を上昇できます。
しかし、心拍数が上昇しない為、酸素解離の上昇は少ないです。
酸素解離は体温上昇と呼吸の促進のダブルで大幅に向上します。
柔軟性エクササイズ(静的ストレッチング)の前に用いましょう。
一般的ウォームアップ
- ジョギング
- サイクリング
- 縄跳び
主に下半身に集中する大筋群を使った活動です。
受動的ウォームアップと異なり、能動的なので心拍数や呼吸数も向上します。
筋の動作による摩擦熱の発生率も高く、血流や発汗を促進し、まさに身体が戦闘モードに突入します。
強度の高い運動やウエイトトレーニングの前に用いましょう。
専門的ウォームアップ
一般的ウォームアップとは異なり、メインの運動やトレーニングに近い動きで行います。
ムーブメントプレパレーションやコレクティブエクササイズなんて呼び方をする様々な専門動作をまとめたものや、単純にランニングをするのであれば、その前に軽いジョギングを行ったり、高重量のベンチプレスを行うのであれば、その前にごくごく軽い重量でベンチプレスを行うなど、同じ動作で汗をかくまで行うことも立派な専門的ウォームアップです。
利点は、その動作に必要な特異的な部位をねらってウォームアップできることです。
またメンタル的にもリハーサル要素があるので良いです。
さいごに
「ウォームアップ」の基本的な概念を理解すると、ただ何となく行うことがなくなります。
しっかりと深部体温と筋温を上げて、メインの運動までに集中力を高める大切な時間であるということがおわかりいただけたかと思います。
ちなみに運動・トレーニング頻度の低い方ほど、筋繊維の滑走が悪く、なかなか筋温も上昇しません。
その場合は軽い静的ストレッチング(スタティックストレッチング)でも少し筋温と可動域を向上できます。
ある程度のストレッチングを終えてから、強度の低いウォームアップから初めて、時間を掛けて体温・筋温を上昇させます。
熟練した方や習慣化している方は、体温調節機構が発達していますので疲労を抑える意味でも5~15分程度で抑えましょう。
季節や気候、身体の調子によっても差が出ますので、目安は汗ばむ程度と覚えておきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。