生理学

【筋トレ豆知識】運動のエネルギー源ATPの役割とメカニズム

運動や筋トレを行うためには、炭水化物、タンパク質、脂質といった化学的エネルギーを持った3大栄養素を代謝して、生体内で使えるエネルギー形態に変えなければいけません。

この【生体内で使えるエネルギー形態】を、

ATP(アデノシン3リン酸)

といいます。

今回はこのATPについて記します。

目次

ATPとは

運動神経から筋肉に指令が下りると、以下のような電気的な化学反応が起こります。

ATP(アデノシン3リン酸)+H₂O(水1分子)

ATPアーゼ(アデノシン3リン酸分解酵素)

ADP(アデノシン2リン酸)+P(リン酸)+H⁺分解

必ず上記の化学変化が起きて、エネルギーを発生させます。このエネルギーを利用して筋肉が収縮します。

まず、すべての運動はこのATPを使って行われるということを頭に入れて下さい。

日常生活において姿勢を維持しているだけでも絶えずATPを使って、筋肉を動かしているわけです。

ATPはアデノシンに3つのリン酸がくっ付いていますが、ここから1つリン酸を切り離す時に協力なエネルギーが発生します。

切り離す際に水1分子が必要です。これを加水分解といいます。

この加水分解を促進させるのが、ATPアーゼ(アデノシン3リン酸分解酵素)という酵素です。

分解されるとADP(アデノシン2リン酸)に変わります。

ATPの体内総量には限りがあるため、この過程では3~5秒間しか身体を動かせません。

ATPは身体を動かすための直接の物質なので、分解されたままのADPだと、身体の機能はストップしてしまいます。いいかえれば、3~5秒で全てのATPはADPになってしまうのです。

このままの状態だと身体を動かしたくても動かせず、使い物にならないわけです。

ということでADPの状態からまたATPに戻してあげたり、新たにATPを供給してあげることが、運動を持続するための大切なポイントになります。

ATPの再生や供給の方式は、3つの運動強度によって再生と供給のスピード・量が変わります。

次にこの3つのエネルギー(ATP)再生機構を見ていきましょう。

ATP(エネルギー)再生供給機構

それぞれの再生機構をみていきましょう。

ホスファゲン系(ATP-CP系):ハイパワー

ATPが分解されるとADPになります。

このADPをクレアチンリン酸(CP)を使って、ATPに戻す過程をホスファゲン系(ATP-CP系)といいます。

この機構は酸素を必要としないので無酸素運動になります。ローマン反応なんて言ったりもします。

クレアチンリン酸がクレアチンキナーゼという酵素の働きで分解されると、クレアチンとリン酸に別れます。このリン酸を使い、ADPをATPに戻し、使える状態にします。

ATPだけでは3~5秒で止まっていた運動が、クレアチンリン酸の総量を全て使ってATPに復活させた場合は、その運動時間は6~10秒くらいまで伸ばせます。

しかし……

「よっしゃー延長できた―!!」

というほど時間は伸びてません。

クレアチンリン酸をもってしても、その量に限界があるため、6~10秒で終了です……。

しかし、この機構には最大のメリットがあります。

ATPの再合成のスピードが一番早いということです。

ダッシュ

すばやく最大の力を発揮したい時には、前述の供給スピードの早さを活かして、この機構が優先的に使われます。

そのかわり、6~10秒くらいしか持ちません。

だいたい全力疾走時の短距離走がこれくらいですね。ウエイトリフティングなんかも最大の重さを一発勝負で持ち上げるので、この機構がよく働きます。

この機構で刺激される筋肉は、速筋線維の多い筋肉です。

力の強い筋肉の為、筋力と瞬発力が高まります。しかし、持続時間が短い為、筋への刺激量として少なめです。

クレアチンはサプリメントとして補給できます。しっかりローディングしてあげると、ハイパワーな運動時間を伸ばせますよ。

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解糖系(乳酸系):ミドルパワー

肝臓や筋肉にはグリコーゲンという形で糖分が貯蔵されています。

これをグルコース(ブドウ糖)そしてピルビン酸へと分解する過程で2つのATPを合成します。

こちらも無酸素運動です。ホスファゲン系(ATP-CP系)と同じく高強度運動で優先的に使われます。

但し、ホスファゲン系よりATPの供給スピードは落ちますので、ミドルパワーの運動で使われます。(ホスファゲン系はハイパワー運動)

このエネルギー機構で動ける限界時間は……

40~120秒前後

といわれています。

この強度で運動を続けるとピルビン酸乳酸に変化し、身体に乳酸が溜まっていきます。乳酸は水素イオンを発生させるので、筋が酸性へと傾き、これ以上ATPを作ったり、またATPからADPへ加水分解できなくなり、筋肉が動かなくなってきます。

いいかえると、酸性になると、筋収縮に関わる酵素、カルシウムイオンの働きを阻害してしまうのです。さらに痛みやだるさも感じさせます。

ここで、補足的に……

「あ~乳酸が溜まった~!」

疲れるとよく言ってしまうこのセリフ。

しかし、誤解無きようお伝えしておきます。

後述の酸化機構でも記していますが、乳酸そのものはむしろ回復に使われるエネルギー源なので疲労物質ではありません。身体が動かなくなるのは水素イオンが原因です。

もし言うならば……

「あ~水素イオンが溜まった~、疲れた~!!」

に変更してください(笑)

ウエイトトレーニング

40~120秒で疲労困憊の運動は、ちょうどベーシックなウエイトトレーニングの1セットの時間にあたります。

追い込むと筋肉が焼け付くように痛くなるあの感じです。他のスポーツだと中距離走(200~800m)なんかも当てはまりますね。

使われる筋肉は、ホスファゲン系と同じく速筋線維を多く含んだ筋肉で、運動時間もホスファゲン系より長くなるため運動ボリュームも上がり、筋肉に対しての刺激量は1番のエネルギー機構になります。

筋力や筋量をアップしたい方は、こちらの運動強度を目安にトレーニングするといいです。特に筋力不足であちこち身体に不調を感じている運動初心者はこのエネルギー機構でメニュー作成してください。

酸化系(有酸素系):ローパワー

40~120秒以上の持続運動になると、炭水化物から分解されたピルビン酸は乳酸に変わらずに、酸素(O₂)を介してアセチルCoA(コーエー)となり、細胞にあるミトコンドリア内でクエン酸回路に入ります。ここで2つのATPを合成します。

またクエン酸回路で生じたNADH2、FADH2から水素イオンを取り出し、ミトコンドリア内膜にある電子伝達系に入り、さらにATPを34も合成します。

と、これを読んで頂いても、難しすぎてよくわからないと思いますので簡潔にいうと……

炭水化物(糖質)と脂質を使い、

酸素(O₂)を介してATPを作り出す機構

ということです。

有酸素運動

この局面を酸化系とか有酸素系なんていいます。

この代謝機構には酸素(O₂)が必要です。日常生活の運動強度もこの機構を利用します。

ちなみに解糖系で生じた乳酸は、この酸化系ではエネルギー源に変わってくれます。

ウエイトトレーニングのあとにウォーキングをすると疲れが取れるのはこのためです。水素イオンを作り出す原因になる乳酸を逆にエネルギー源に変えて処理してくれるのです。

短時間で疲労困憊になるような強度の場合は、乳酸の酸化が間に合わず、乳酸が血中に溢れだします。筋肉に十分な酸素が行き渡る有酸素運動は乳酸が溜まる前に、どんどんエネルギー源に変えて、運動を長く持続できます。

乳酸をうまくエネルギーとして使うポイントは運動強度です。

疲労困憊にならないように緩やかに運動(ローパワー)を持続させれば、酸化系(有酸素系)になります。

あと唯一、脂質が使われる機構なので、体脂肪を落としたいときにはうってつけの機構です。炭水化物の酸化過程と同時に脂質の酸化が起こっていると思ってください。

私個人の見解ですが、よく家事をされたり身体を動かす主婦の方は身体が締まっている方が多い気がします。

逆に、デスクワークばかりで身体をあまり使わない人はぽっちゃりされている方が多いような……

ここでひとつ覚えておいて下さい。

炭水化物、脂質を使う酸化系の運動は、あまりに長時間になると、炭水化物と脂質が枯渇してきます。ここで運動をストップすれば問題ないのですが、これ以上運動を続けた場合、タンパク質もエネルギー作りにもれなく参加してきます。

これでは無駄に筋肉(特に速筋線維)を分解してしまうので、筋力を維持したい場合は特に注意しましょう。

マラソンは究極の長時間スポーツですが、マラソンのトップアスリートに細身の方が多いのはこのためです。(必要最低限しか速筋線維がない)

一般の人は、健康維持とボディメイクの観点から、ある程度の筋量(速筋線維)は維持したいところですので、ここは要注意です。

まとめると、

この機構の長所は……

長時間ATPを作り続けられる

という事。

逆に短所は……

合成するのに時間が掛かる

ということ。

長く動けるけど、急激な運動だとATPの供給が間に合わないということです。

酸化系はローパワーの運動で優先的に使われる機構です。ウォーキング、ジョギング、サイクリングなんかがあてはまります。日常生活動作もです。

このエネルギー機構で刺激受ける筋肉は、遅筋線維の多い筋肉です。遅筋線維はあまり力は無く、大きく発達もしませんが、持久力に優れています。

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さいごに

運動やトレーニングのエネルギー代謝には特異性があります。

このように、3つの特異的なエネルギー機構を頭に入れておくことは、目的に合致したトレーニングメニューの作成に多いに役立ちます。

運動強度、運動持続時間、インターバル、必要な栄養素、疲労回復など、全ての要素で隙のないメニューが作れるようになります。

自己流でトレーニングしていて効果が出せなかった方に、少しでも参考にして頂ければ嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

《参考文献》

金久博昭・岡田純一 第3版 NSCA決定版 ストレングストレーニング&コンディショニング ブックハウスHD 2010年

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ABOUT ME
パーソナルトレーナー
相馬達也
「ウエイトトレーニングと鍼灸マッサージで日本を元気に!」を天に与えられた使命として日々試行錯誤しているパーソナルトレーナーです。1児の父でもあります。身体のことならお任せください。
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