五十肩は……
50代を中心に、その前後の世代の40~60代にかけて発症する
肩の痛みと動作困難を来す症候群
の俗称です。
この記事では、このような疾患「五十肩」について解説していきます。
目次
五十肩の定義とは
冒頭で、五十肩は俗称であるとお伝えしました。
俗称であるということは、正式な医学的名称がありません。
なぜ正式名称が無いかというと、原因がわからないからです。
逆に、原因がはっきりしている肩の関節痛や運動制限には医学的な正式名称があります。
これらを肩関節周囲炎といいます。
肩関節周囲炎は必ず原因となる様々な肩の疾患が存在します。
ですから、画像診断や様々なテスト法で鑑別できます。
五十肩は、肩関節周囲炎に該当しないもの指しますので、まずはこの違いを抑えましょう。
五十肩と肩関節周囲炎をひっくるめて、肩関節周囲炎といったり、五十肩と定義することもある。
五十肩と肩関節周囲炎の症状
まず両者の痛みの違いですが、
五十肩の症状は、比較的緩やかに痛みが発症し、徐々に痛みが増します。
肩関節周囲炎に関しては全てではないですが、比較的急激に痛くなることが多かったり、熱感や腫れ、発赤などを伴うこともあります。
この痛みや症状の違いで五十肩とのおおよその鑑別になります。
次に痛みの種類についてです。
両者に共通する痛みは……
- 動かさなくてもシクシク痛い【自発痛】
- 動かすと痛い【運動時痛】
- 睡眠中に目が覚めてしまうほどに痛い【夜間痛】
- 気温の低い時に痛い【寒冷時痛】
が特徴です。とにかくいろいろと痛いんですね。
痛みが発症してから、また五十肩と肩関節周囲炎に症状の違いが出てきます。
まずは五十肩す。
この痛みだけで終わるならまだマシなのですが、痛みが発症してある程度の期間が経過すると、今度は関節がロックします。
ロックとは拘縮(こうしゅく)のこと。運動制限が出てくるんです。
代表的な運動制限が……
- 結髪障害(けっぱつしょうがい)
- 結帯障害(けったいしょうがい)
です。
結髪障害は髪を結ぶ動作です。肩関節の外転・外旋が障害されます。
結帯障害は着物の帯を結ぶ動作です。肩関節の伸展、内旋が障害されます。
運動制限が出た後は、徐々に痛みが引き、ロック症状も併せて引いていきます。
だいたい1年~1年半で日常生活に支障がないくらいに回復します。
肩関節周囲炎に関しては、五十肩・四十肩ほど拘縮はあまりないのが特徴です。
ここで注意をひとつ。
拘縮はあまりないと言っても、健常時よりはもちろん動かしづらくなります。
その中でも石灰沈着性腱板炎だけは早い時期に拘縮が伴います。
五十肩と肩関節周囲炎の原因
それそれの原因を見ていきましょう。
五十肩の原因
前述のとおり、五十肩については明確な原因がわかっていませんが……
加齢による肩関節周囲の軟部組織(骨以外の組織)の退行性変性(老化)によって、正常な動作ができなくなった関節に負担が掛かり、炎症が起きることで発症すると言われています。
退行性変性が起きやすい軟部組織は、関節を包んでいる関節包という組織です。
関節包自体が悪くなることもありますし、その中の滑膜が炎症を起こすこともあります。
↑関節包
出典:解剖学 改訂第2版 全国柔道整復学校協会
肩関節周囲炎の原因
次に明確に診断が付く肩関節周囲炎についてです。
これらは各種テストで確認できます。それではそのテスト法をみていきましょう。
ヤーガソンテスト
患者は座位です。
上腕を体幹に接して、肘関節屈曲90度、前腕中間位(回内と回外の中間)を保ちます。
検者は患者前面に座って、患者と握手します。
そこから患者に前腕回外を指示し、検者はこれに抵抗します。
陽性反応は、上腕骨結節間溝部に痛みが出ます。
↑上腕二頭筋長頭腱
出典:プロメテウス解剖学アトラス コンパクト版 医学書院
前腕の回外運動をさせると、上腕二頭筋が収縮します。
収縮すると、結節間溝部の上腕二頭筋長頭腱にストレスが掛かります。
そこに炎症があると痛みが出るのが、このテストの臨床的意義です。
診断名は上腕二頭筋長頭腱炎です。
ストレッチテスト
患者は座位です。
検者は患者の後方に立ち、一方の手で患者の上腕を、他方の手で前腕を保持します。
ここから患者の肘関節を伸展位にして他動的に肩関節を伸展させます。
このときに結節間溝部に疼痛を訴えれば、肩関節を伸展位のまま肘関節を屈曲させます。
陽性であれば痛みが消失します。
この場合、上腕二頭筋長頭腱炎が疑われます。
このテストの臨床的意義は、肩と肘の両関節にまたぐ二関節筋である上腕二頭筋の性質を利用したもので、肘側だけ緩めることによって結節間溝部のストレスを弱めることができ、痛みの変化を確認できます。
スピードテスト
患者は座位で肘関節伸展位、前腕回外位、肩関節90度屈曲を保持します。
ここから検者は患者の前腕を押し下げ、患者に抵抗を指示します。
結節間溝部に痛みが出れば陽性です。
上腕二頭筋長頭腱炎が疑われます。
このテストの臨床的意義は、前述のストレッチテストと同じく肩と肘にまたぐ上腕二頭筋の性質を利用したものです。
ストレッチテストとの違いは、痛みを誘発させるという事と、肘ではなく肩関節を支点として屈曲方向への力発揮をさせる点です。
ペインフルアークサイン
自動運動で肩関節外転を行います。
自動運動とは、自身で動かす動作です。
これができない場合は、検者に動かしてもらう他動運動で行います。
肩関節外転60度くらいから肩峰の下あたりに疼痛が生じ、120度を越えるあたりでその疼痛が消失したら陽性です。
肩峰下滑液包炎、腱板炎、石灰沈着性腱板炎、腱板断裂を疑います。
このテストの臨床的意義は、肩関節外転60~120度付近は、上腕骨の大結節とそこを包む腱板や肩峰下滑液包が、肩峰、烏口上腕靭帯、烏口突起などと摩擦が起きやすく、何か炎症や傷があると痛みが出ます。
120度を越えると上腕骨の大結節が肩峰の下に綺麗に入り込むので摩擦が無くなり、痛みは消失します。
シンプルにいいかえると……
肩の外転角60~120度で
肩の関節の腱や細かい筋肉が、
肩を構成する骨や靭帯に挟まれますよ~
ということです。
ダウバーンテスト
肩峰外側大結節部あたりに限定して痛みを感じる場合は、そこを押したまま肩関節を外転させます。
外転角90度を越えたあたりで圧痛が消失すれば陽性です。
肩峰下滑液包炎が疑われます。
出典:プロメテウス 解剖学アトラス コンパクト版 医学書院
このテストの臨床的意義は、上腕が下垂した状態では、肩峰下滑液包は三角筋下に位置し押圧が可能ですが、外転運動に伴い三角筋が収縮し膨隆するので、外転90度付近では肩峰下滑液包を押圧することは不可能になることを利用しています。
ドロップアームテスト
検者は患者の肩関節を他動で外転位90度にします。
患者には外転位90度をキープさせ、検者は手を離します。
外転位が保持できず、腕が落ちれば陽性です。
腱板断裂が疑われます。
このテストの臨床的意義は、腱板(ローテーターカフ)の中でも特に棘上筋(きょくじょうきん)に注目することです。
この筋は上腕骨頭を体幹方向に引き付ける作用を持っている為、ここが損傷すると外転の保持ができなくなります。
五十肩と肩関節周囲炎の治療法
余程でなければ、ほとんどが保存的治療法を選択します。
保存的治療法とは、運動療法、薬物療法、鍼灸、あん摩マッサージ指圧などです。
当方は、トレーニング指導と鍼灸マッサージが専門ですので、運動療法と鍼灸マッサージについて記します。
まず運動療法についてです。
前述していますが、ペインフルアークサインがあれば、五十肩というよりも肩関節周囲炎であり腱板損傷や断裂ですので、五十肩と同じ運動療法は危険な場合があります。
こちらは基本的に炎症や痛みが強い時期は、外転、外旋、内旋動作をさせないようにします。
五十肩・四十肩であれば、痛くない範囲ですぐに運動療法に取り掛かりましょう。
コッドマン体操(アイロン体操)、棒体操、壁押し運動などが有名ですね。
特に、コッドマン体操(アイロン体操)と棒体操がおすすめです。
患側の腕を動かさずに行えます。
コッドマン体操は体幹を使って腕を振り子のように振り、棒体操は健康な方の腕で棒を動かして、痛くない範囲で患側の腕を動かしてあげます。
絶対に患側の腕で動かさないようにしましょう。
次に鍼灸やあん摩マッサージ指圧ですが、こちらは五十肩、肩関節周囲炎どちらにも有効です。
圧痛点治療が効きますので、押して痛いところを鍼やお灸、指圧などで施術します。
押して痛みのあるところはツボ(経穴)の場合もありますし、正式なツボ(経穴)でない場合もあります。
ちなみに正式なツボ(経穴)でないのに押すと痛みのあるところを阿是穴(あぜけつ)といいます。
圧痛点治療を終えると、可動域が広がり日常生活が楽になりますので、積極的に施術を受けてみてください。
五十肩や肩関節周囲炎に良く効くツボ(経穴)についてはここでは割愛します。
さいごに
五十肩と肩関節周囲炎の基本的な情報を中心にまとめてみました。
五十肩は、肩が急激に痛んで、動かなくなるので「一生このまま続くのか?」と不安になりますが、予後は良好ですからご安心ください。
上記でも記しましたが、早い段階で運動療法や鍼灸マッサージなどを取り入れると、その回復も早くなります。
肩関節周囲炎はその原因疾患がはっきりとわかれば、それぞれの疾患に合わせて治療をしましょう。五十肩と混同してはいけません。
痛みや可動域制限でお困りの方は、お一人で悩まずに是非MRGにご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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