強い肩こりに手の痺れ、そして手先が冷たい。
そんな症状から頸椎に問題があるのかと思ったら、病院での診察では異常なし。
そんな症状はもしかすると胸郭出口症候群かもしれません。
そもそも名称が……
胸郭?
出口?
基本から解説していきます。
目次
胸郭出口とは?
胸郭出口とは……
- 胸郭と呼ばれる範囲内
- 神経や血管の通り道
- その通り道の中でも狭いエリア
のことを指します。
下図をご覧ください。
これが胸郭です。
胸骨と肋骨と胸椎で構成される骨の籠です。
この胸郭上で、神経や血管を絞扼(圧迫)しやすい狭い通り道である胸郭出口が数か所あるというわけです。
胸郭出口はどこ?
まずは下図をご覧ください。
出典:臨床医学各論 第2版 医歯薬出版株式会社
3か所の絞扼ポイントによる症候群が記されています。
ということで、それぞれの絞扼ポイントによる症候群を見ていきましょう。
①斜角筋症候群
まず最初の絞扼ポイントです。
前斜角筋と中斜角筋の間になります。
この間隙(かんげき)には腕神経叢と鎖骨下動脈が通ります。
このトンネルは前壁が前斜角筋、後壁が中斜角筋、底面が第1肋骨で構成されます。
前斜角筋や中斜角筋が痙縮したり凝り固まると、容易にこの間隙は狭まります。
デスクワークなどは顕著で、ディスプレイを覗き込む作業は頭部を前に倒すので、斜角筋群は緊張します。
スマホを長時間見たり、読書や洋裁なども同じ姿勢ですので、要注意です。
出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 医学書院
②肋鎖症候群
次の絞扼ポイントは、第1肋骨と鎖骨の間です。
この間隙には腕神経叢と鎖骨下動脈、また①の斜角筋症候群では通過しなかった鎖骨下静脈も通過します。
このトンネルは、上面が鎖骨、底面が第1肋骨です。
出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 医学書院
元々の骨格が華奢でなで肩の方は、鎖骨が下制しトンネルの天井部分が下がり気味なので、このポイントは圧迫されやすくなります。
華奢な体型な方は筋量や筋力が低いため、肩や首周りの筋肉が未発達です。僧帽筋上部を鍛えて鎖骨が落ちないようにしてあげることが大切です。
③過外転症候群
最後の絞扼ポイントは、烏口突起と小胸筋と肋骨で構成されるトンネルです。
肋鎖症候群と同じく、腕神経叢、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈が通過します。
出典:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版 医学書院
肩関節を外転させると、肩甲骨は上方回旋します。
そのため烏口突起の向きが変わり、このトンネル部分も一緒に上行します。
このときに小胸筋が硬いと伸びが甘くなり、小胸筋に腕神経叢、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈は圧迫されます。
簡単にいいかえると、上肢を拳上すると症状がでるということです。
洗濯物を干す、洗車、つり革を握る、このような動作で発症したら間違いなく過外転症候群でしょう。
小胸筋は猫背の姿勢で短縮しやすく凝り固まりやすいので、デスクワークなど同一姿勢を長時間続ける作業は要注意です。定期的に休憩を取り、姿勢を変える工夫が必要です。
全てのタイプに共通すること
- 頸椎そのものに器質的な問題の有無は関係ない
- 頸椎、鎖骨、胸郭、肩甲骨のアライメント(姿勢)異常で起こる
- 生活スタイルやストレスなどがもろに影響する
簡単に言ってしまえば、首が前に倒れ、肩が前に入るような姿勢を続けていると、発症しますよということです。
デスクワークや家事でこのような姿勢を取らないようにするにはサポーターをつけることも有効です。
強制的に、アライメントを正常化してくれます。
筋疲労を軽減させるのに、このようなサポーターに頼ることは有効です。
ただし自前の筋力の向上・維持も同じように大切なので、要所要所でトレーニングも行いましょう。
胸郭出口症候群の症状
- 上肢のしびれ感
- 放散痛
- 脱力感
- チアノーゼ
- 筋萎縮
- 冷感
などです。
シンプルにまとめると……
鈍痛
冷感
を感じる疾患です。
神経圧迫による感覚障害、痺れ、血管圧迫による循環障害、冷感が主な原因です。
一説には交感神経の圧迫もあるのではないかともいわれています。
交感神経が圧迫されると末梢血管が拡張しませんので、循環障害が起きるという説です。
交感神経は胸腰系(きょうようけい)といわれ、胸髄から腰髄の側角から起こるので、一見、頸髄から始まる腕神経叢と関係ないように見えますが、胸髄から出た交感神経線維は交感神経幹を上昇して下頚神経節、中頚神経節を形成します。
そこから腕神経叢に合流しますからあり得る話です。
専門的で難しいので簡単にまとめると……
首より下の背骨から出た交感神経が上に向かって伸びていき首から出る腕神経叢と合流する
ということです。
胸郭出口症候群は腕神経叢を圧迫しますから、同時に合流した腕の血管に向かう交感神経を圧迫するイメージです。
胸郭出口症候群の判別
各症候群の判別テストをご紹介します。
モーリー(モーレイ)テスト
鎖骨上窩で腕神経叢を指で圧迫します。圧痛や放散痛があれば陽性です。この検査では拍動のチェックありません。
斜角筋症候群を判別できます。
アレンテスト
上肢を水平位(90度)まで外転し、肘関節90度屈曲、そこから頭部を症状のない側(健側)に回旋させ、橈骨動脈の拍動も同時にチェックします。
症状の増悪、患側の拍動が消失して陽性です。斜角筋症候群の判別ができます。
アドソンテスト
頭部を症状のある側(患側)に回旋させ、深呼吸させます。併せて橈骨動脈の拍動を両腕ともにチェックします。
症状の増悪にくわえて患側の拍動が消失して陽性です。
斜角筋症候群の判別ができます。
このテストは、第7頸椎の横突起が先天的に長い「頚肋骨(けいろっこつ)」がある場合も陽性反応が出ます。
エデンテスト
胸を張り、両肩を後下方に引きます。
併せて橈骨動脈の拍動もチェックします。
症状の増悪、患側の拍動消失で陽性です。肋鎖症候群の判別が可能です。
ライトテスト
両上肢を外転、外旋させます。
併せて橈骨動脈の拍動もチェックします。
症状の増悪、患側の拍動消失で陽性です。過外転症候群の判別が可能です。
このライトテストと同じ肢位で、手指の屈伸を3分間行うルーステストも、過外転症候群の判別テストです。陽性の場合、3分間持続できません。
さいごに
胸郭出口症候群は、頸椎そのものに器質的な問題が無くても、頸椎、鎖骨、胸郭、肩甲骨のアライメント異常で起こりうることが分かります。
いいかえればストレートネック、猫背、なで肩、肩甲骨の過度な前傾などが大きな原因になりうるということです。
生活スタイルやストレスなどがもろに影響する部位です。
ですので常日頃から上肢帯の筋力バランスや柔軟性を整える必要があります。
コンディショニングをせず放っておけば、いずれ頸椎ヘルニアなどの器質的な問題に波及することも考えられますね。
肩が動かしにくい、首が回りにくい、肩こりがいつもひどいなどの症状がある方は、胸郭出口症候群予備軍です。是非MRGにご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。