有酸素運動の目的は、全身持久力の向上と体脂肪燃焼です。
一般の人々にとっては全身持久力向上というよりも「健康のための脂肪燃焼」が一番の理由になることが多いです。
しかしながら、近ごろはマラソンや自転車などを趣味にされている方も多く、中には競技会などに参加されるレベルの方もいらっしゃいます。
またサッカーやラグビーなどの様々な競技のアスリートもいます。
こういった趣味・競技はダッシュやジョグを繰り返す局面も多く、競技時間を通して無酸素代謝を極力節約しつつ、高いパフォーマンスを発揮することが大きなアドバンテージになります。
このレベルの人々は体脂肪燃焼よりも全身持久力向上により重きを置いたトレーニングが必要になります。
この記事では、それぞれの目的(体脂肪燃焼or全身持久力向上)に合った「有酸素運動のトレーニング様式」をご紹介します。
目次
有酸素性能力を決める要素
最大酸素摂取量
最大酸素摂取量とは、1分間に体重1kgあたりの取りこむことができる最大酸素量のことです。単位はml/kg/分です。
VO2MAXと呼ばれたりもします。
文字通り、酸素を取りこむ最大能力なので、有酸素性能力の一番重要な要素です。
ここを鍛えることが全身持久力アップのためにとても大切なのです。
最大酸素摂取量は簡単に測定できません。
大学などの研究施設でないと測定装置が無いためです。
そのため厚生労働省「健康づくりのための運動基準2013」で性・年代別のわかりやすい基準値が定められています。
年齢 | 18~39歳 | 40~59歳 | 60~69歳 |
---|---|---|---|
男性 | 39ml/kg/分
(11.0メッツ) |
35ml/kg/分
(10.0メッツ) |
32ml/kg/分
(9.0メッツ) |
女性 | 33ml/kg/分
(9.5メッツ) |
30ml/kg/分
(8.5メッツ) |
26ml/kg/分
(7.5メッツ) |
表中の( )内の数値は運動強度の単位です。
参考までに座って安静にしている時が1メッツで、とても軽い運動が3メッツです。
表内のメッツ数で運動を3分以上継続できた場合に、基準を満たしたことになります。表内のメッツ数に応じた代表的な活動内容は下記を参考にしてください。
- 7.5メッツ: 登山 バックパック1~2kgの荷物を背負って
- 8.5メッツ: 階段を速く上がる
- 9.0メッツ: 重量物を上の階に運ぶ
- 9.5メッツ: ジョギング(時速9キロ以上)
- 10.0メッツ: キックボクシング、柔道、空手など
- 11.0メッツ: 水泳(バタフライ)、活発な運動など
アスリートの場合の最大酸素摂取量が優れているかどうかの基準は……
60ml/kg/分
といわれています。
この数値が優れたスポーツ選手の一つの目安と言えます。
超一流の持久系アスリートですと、80ml/kg/分を超える例もあるそうです。
最大酸素摂取量は有酸素性トレーニングをすることで5~30%の増加がみられます。その要因は……
- 中枢性の適応
- 末梢性の適応
です。
中枢性の適応は、心臓血管系の適応のことを指します。
血液量そのものや酸素を運ぶヘモグロビン量が増えたり、心臓のポンプ機能や心容積がアップしてくれます。
最大酸素摂取量はこの中枢性適応に大きく影響を受けます。
この適応が進み切ると、最大酸素摂取量の増加は頭打ちになります。
末梢性の適応も最大酸素摂取量の増加のためには大切な要素ですが、中枢性の適応と比較した場合、そのウエイトは小さいです。
末梢性の適応については後述の要素になります。
乳酸性作業閾値
乳酸性作業閾値とは……
運動中に血中乳酸濃度が安静時のレベルを超えて急激に上昇する点
とNSCAでは定義しています。
この点のことを「LT」(Lactate Threshold)と呼びます。
LTの出現する強度はだいたい最大酸素摂取量の50~70%です。いわゆる「ハアハア、ゼエゼエ」と呼吸が苦しくなるところです。
酸素を使ってのエネルギー供給(酸化)が間に合わず乳酸が増えだすと呼吸が乱れます。
逆にLT以下だと乳酸は蓄積せず、酸素不足が起きないので、持続的な運動が可能です。
乳酸の産生と酸化の効率が拮抗している最も高い点をOBLA(オブラ)といいます。
有酸素運動の最大強度がこの点です。
ここから少しでも強度を上げれば、無酸素代謝に移行し、呼吸が苦しくなります。酸素が足りないので呼吸数が増えるわけです。
有酸素性トレーニングを積むことで、筋の酸化能力(ミオグロビンの増加)、ミトコンドリアや毛細血管の増加などがおこるので、乳酸性作業閾値は向上します。これらは前述の末梢性の適応になります。
エネルギー供給
筋収縮の直接のエネルギー源はATPです。
ATPは主に炭水化物、タンパク質、脂質から生成されます。
運動の強度や継続時間によって、ATPの生成過程は変わります。
最大酸素摂取量の70%を超える運動では、ATPの生成に脂質よりエネルギーに変わりやすい炭水化物を使います。
しかし、血液、肝臓、筋肉に蓄えらえている炭水化物(グルコースやグリコーゲン)は限りがあるのですぐに枯渇します。
よって貯蔵脂肪を効率良く使えると、炭水化物を節約できるため、長時間動くことが可能になります。
効率良く体脂肪を使えるようになる為には、有酸素性トレーニングで筋肉内のミトコンドリア量を増やすことが重要です。
ミトコンドリアは有酸素代謝を行う場所です。この適応は末梢性の適応に分類されます。
筋線維特性
有酸素的特性に優れた筋肉は、typeⅠ(ST)線維の割合が多い筋肉です。
この筋線維には有酸素代謝を行うミトコンドリアや、血液から酸素を受け取るミオグロビン、酸化を促進させる酵素が多く存在します。
有酸素トレーニングにより、これらの線維を増やすことは困難ですが、筋のタイプをST線維に変えていくことが可能です。
これらの筋は瞬発力はありませんが、持久力に優れています。
瞬発的な筋と持久的な筋の割合は遺伝的に決まっていますが、瞬発と持久の中間の筋も存在します。
この筋はトレーニングのタイプ(無酸素or有酸素)によって瞬発的にも持久的にも変化させやすいと言われています。
もともとのST線維は有酸素運動でさらに能力が高まります。これらの適応も末梢性適応です。
運動効率
その運動に慣れているか慣れていないかの指標です。また環境の影響もあります。
特に技術的な要因は大きく(例えばランは得意でもスイミングになると技術不足など)、エネルギー効率が悪くなり、長時間の運動が不可能になります。
また技術の未熟さが、物理的ストレス、精神的ストレスになり、カテコールアミン(アドレナリン)が大量に出て、身体が緊張し乳酸が溜まりやすくなると言われています。
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有酸素性トレーニングの様式
ランニングやスイミングなど運動の方法には様々な種類があります。まず最初にこの中から比較的楽に動けるものを選択しましょう。
次に強度や時間、頻度などの変数を、目的に応じて組み合わせます。この変数の組み合わせから代表的なトレーニング法をご紹介します。
LSD
long、slow、distanceの略称です。
長い距離をゆっくりとしたペースで走る持久走のことです。
最大酸素摂取量の50~70%、心拍数でいうと110~130拍/分の強度です。
苦痛を感じる様な強度ではLSDではありません。
目安は会話をしながらでも運動を継続できる強度です。
継続時間は30分くらいから開始し、漸進的に60、90、120分と時間を伸ばしましょう。
トレーニング効果は心臓血管系などの中枢性、体温調節機能や筋の酸化能力などの末梢性の適応をバランス良く促しますが、どちらかというと後者の向上に向いています。
後者の体温調節機能と酸化能力向上は脂肪の利用効率を上げるので、乳酸の溜まりにくい身体を作ります。いいかえると前述のLTが高まるということです。
体脂肪の燃焼には最適な運動なので、生活習慣病の予防や改善のために使われることが多いのも特徴です。
競技選手の場合は速いスピードで動く必要があるので、LSDのみでは競技には活かせません。
ペース・テンポトレーニング
ペース走、テンポトレーニングは、LSDよりも速いスピードで走り続ける持久走で、スポーツ愛好家や競技選手のトレーニングに使われることが多いです。
最大下の環境で疲労しにくい(心拍数が上がりにくい)身体を作ります。
運動強度は、最大酸素摂取量の70%以上で、心拍数でいうと150拍/分以上です。
これは前述のLTに相当する強度で、閾値トレーニングなんて呼ばれます。
一歩間違えば無酸素運動に変わってしまうギリギリの強度です。
これはマラソンでいうとまさにレースに近いペースであり、実戦感覚を掴むのにもってこいのトレーニングです。
競技中に要求される身体システムの適応と末梢組織の毛細血管の増加が起こりLTの向上に効果的です。
ペース走は、20~30分間LTレベルで走ります。
このトレーニングはある程度鍛錬された人向きです。
まだ体力がなく一定時間走れない人はテンポ走を採用しましょう。
これは間欠性のペース走のことで、インターバルを設けながら心拍数150以上のスピードで動き続けます。
3~5分間動き、30~90秒休息するのを繰り返し、決められた時間を同じペースで動けなくなった時点で終了とします。
ずっとペースが落ちない場合でも強度は高めなので20分以上は続けないようにしましょう。
インターバルトレーニング
ペース・テンポ走を大幅に超える、ほぼ最大酸素摂取量(心拍数でいうと約180拍/分)に近い強度を短時間で走ります。
これをほぼ全力で走る急走期といいます。
急走期を終えたら、心拍数を120拍/分まで回復させたジョギングに切り替えます。これを休息期といいます。
短距離の練習であれば急走:休息比を1:3で組みます。50mや100mを10秒ダッシュしたら30秒休むイメージです。
中距離(400~800m)では1:2、長距離(1000~1500m)では1:1でインターバルを組みましょう。
前述のLSDやペース・テンポ走はどちらかというと末梢性の適応がメインですが、インターバルトレーニングは心臓血管系などの中枢性の適応に狙いを定めたトレーニングです。最大酸素摂取量の向上と無酸素代謝能力向上がメインです。
心拍数が上がりまくっても、すぐに苦しくならずに耐えられるようになるので、競技中の最大に近い力を出すような局面で大変役に立ちます。
とても強度の高いトレーニングなので、多くてもトレーニングは週2回までに留めましょう。
急走期と休息期のセットは5~10セットで組みます。
インターバルトレーニングを採用できる最低ラインはLSDやペース・テンポ走をしっかりこなせるようになってからです。
最近ではHIIT(ハイ・インテンシティ・インターバル・トレーニング)などと呼ばれ流行りのトレーニングなので、飛びつきたくなると思いますが、焦らずじっくりと基礎的な有酸素トレーニングを積みましょう。
レペティショントレーニング
インターバルトレーニングとほぼ同じですが、強度は最大酸素摂取量以上の強度です。
急走期は全力を出し切ります。インターバルトレーニングとの違いは、休息期に完全回復するまで休みます。
ジョグを継続する必要もありません。急に止まると危険なのでウォーキング程度はOKです。
呼吸が整ったら再度全力疾走です。最大スピードと無酸素代謝能力を向上できます。
スピードを向上させたい走行距離を設定して、その距離を4~6回に分けて全力で走ります。
例えば、800mを速く走りたいなら、200mを全力で走って完全休憩×3本、最後のセットは150mを全力で走って終了とします。合計750mです。
パフォーマンスを維持するためには合計で800m以下に設定するのがポイントです。必ずしもこのセットをすべてこなす必要はなく体力のないうちは急走期のスピードが落ちた時点で終了とします。
高強度トレーニングですので週1を目安に取り入れましょう。
前述のトレーニングをこなせるレベルになったらチャレンジしてみて下さい。
さいごに
一口に有酸素運動といっても、これだけのトレーニング様式があります。
この記事でまとめてみたものはあくまでも有酸素性トレーニングの基礎です。この他にもこれらをベースにした様々な派生様式もあります。
採用に当たっては、ウエイトトレーニングと同じで、ウォーミングアップ、クーリングダウンは必ず行いましょう。
トレーニング頻度も守ってオーバートレーニングを防ぎましょう。
ウエイトトレーニングと同じでストレスを身体にかける行為ですから、日頃の精神的ストレスとの兼ね合い、血圧の変動等は常にチェックした上で強度をコントロールすること、そして休息日に栄養をしっかり摂ることも大切です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。