痛みのメカニズムについてです。
結論から記すと、痛みという感覚を生み出すには、【物理的な侵害刺激】や【痛みを誘発する刺激物質】が、【痛みのセンサー(受容器)】を刺激しなければなりません。
目次
痛みについて
まず大前提として、なぜ人は痛みを感じるのか?
それは……
身体の危険を知らせるため
です。
痛みには、「身体を動かさないで~」というセンサーのような役割があります。
壊れた組織を修復する際に“体動”はNGです。
体動が起こると、修復がスムーズに進まないどころか、壊れて過敏になっている組織をさらに破壊してしまうことがあるからです。
痛みの種類は3種類です。
侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、心因性疼痛に分かれます。
侵害受容性疼痛
生体に外部からの刺激が加わって生じる痛みで、この痛みは【危険を知らせるセンサー的痛み】になります。
刺し傷、切り傷、擦り傷などの体性痛、虫垂炎などの内臓痛に分かれます。
さらに体性痛は、皮膚、粘膜などに起こる表在痛、骨格筋(筋肉)、関節、靭帯、骨膜などに起こる深部痛に細分化できます。
体性痛と表在痛はハッキリとした鋭い痛みで、内臓痛と深部痛はぼんやりとしたうずくような痛みが特徴です。
前述したように、警告的な意味があるので、痛みの原因を除去しない限り、痛みが続くのが特徴です。
これら侵害受容性疼痛は、必ず末梢神経上のセンサーである侵害受容器を介して電気信号を脊髄→脳へと伝えます。
このときにセンサー(侵害受容器)を反応させるのが、各種発痛物質です。(物理的な刺激での痛み、炎症反応での痛みによって、その発痛物質は異なります。)
そして、脳に伝わって初めて「イタッ!」と感じます。
神経因性疼痛
末梢神経系、中枢神経系の直接の損傷(1次損傷)や機能障害によって生じる痛みです。
簡単にいうと、神経そのものが傷ついている状態です。
神経の障害なので、物理的な組織の損傷が無くても発生します。
坐骨神経痛、後頭神経痛が代表的な例です。硬くなった筋肉や瘢痕、腫瘍などが神経を圧迫し、障害するような症状です。
またウイルスに直接神経を損傷される帯状疱疹、切断したところに痛みを感じる幻肢痛などもあります。
侵害受容性疼痛とは違い、侵害受容器センサーは関係ありません。神経伝達そのものの障害です。
ですので前述の侵害受容性疼痛とは違い、警告的意味合いはありません。
警告的な痛みではないことから、締め付け、または焼け付くような持続的な痛みだったり、痛いときと痛くないときが交互にあったり、発作的に激痛が走ったりします。
神経の障害ですから、感覚も鈍ります。
知覚鈍麻になったり、逆に知覚過敏になったりなども代表的な症状です。
この状態が過度になるとアロディニア(異痛症)といって、組織を損傷してしまうような強く鋭い刺激でもないのに、「ただ触れただけレベルの優しい刺激」でも激痛に感じたりします。
心因性疼痛
身体疾患が皆無なのに、痛みを感じるのが特徴です。
いわゆる原因不明の痛みです。
人生においてのストレスが起因して、脳にトラブルが発生し、身体の様々な部位に痛みを感じます。
うつ病、ヒステリー、てんかん、幻覚などで感じる痛みはこの心因性疼痛です。
前述の侵害受容性疼痛、神経因性疼痛が長引くことで、発症することもあります。
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感覚受容器について
皮膚には様々な感覚がありますね。
例えば、痛みや温度を感じたり、触れたり圧迫されたり揺らされたりするのを感じます。
これらの感覚は、それぞれの感覚に対応したセンサーが感知します。
この中で、痛みと温度を感知するものが自由神経終末(じゆうしんけいしゅうまつ)、触れたり圧迫されたり揺らされたりを感知するものがマイスナー小体、メルケル盤、ルフィニ終末、パチニ小体などです。
これらを総称して感覚受容器といいます。
今回のテーマは「痛み」ですので、この中で【痛み】と【温度】を感知する感覚受容器である自由神経終末に着目します。
皮膚に見られる感覚受容器↑
先ほどは皮膚で説明させていただきましたが、筋肉(骨格筋)においても、筋膜や筋肉内(骨格筋内)の血管付近にこれらの感覚受容器、その中でも特に自由神経終末は数多く存在します。
例えばストレッチをした時に筋肉に痛みを感じますが、これは自由神経終末が感知しています。
また血流が滞れば、筋肉をコリコリ(収縮しっぱなし)にしてしまいます。
凝ると発痛物質(ブラジキニン)や代謝産物(二酸化炭素や水素イオン)などの老廃物が増えていきます。
コリ(収縮)を解除するには、新しい血がやってきて、新鮮な酸素の供給や老廃物の回収をしてもらうことが必要ですが、コリ自体がさらに血管を圧迫し、血流を滞らせて悪循環に陥っている為、老廃物がさらに溜まり、血管付近の自由神経終末は老廃物から痛みを感知します。
関節や骨、靭帯、腱などにもそれらの膜や血管に自由神経終末があるので、痛みを感じますが、軟骨組織だけ神経や血管が無いので、痛みを感知しません。
ですので軟骨が傷んでいても気づきません。以上のことから関節が痛いというのは余程のことなんです。
ちなみに軟骨への栄養供給は、血管が無いことから関節内の液体である滑液に依存します。
滑液は関節運動が起きないと循環しないので、適度な運動が必要です。関節を守るためにも積極的に運動をしましょう。
適切な負荷と正しいフォームで実践するウエイトトレーニングがお勧めです。
さて自由神経終末には温度と痛みを感知する2種類のセンサーがあると前述しましたが、さらにそれぞれをくわしく見ていきましょう。
温度受容器
①冷受容器
皮膚温10℃以上30℃以下で興奮。
冷受容器(自由神経終末)で感知し、Aδ線維(Ⅲ群線維)という神経線維を、神経経路は外側脊髄視床路(下図参照)を通ります。10~30℃のものに触れるとすばやく冷感が伝わります。
Aδ線維(Ⅲ群線維)は有髄線維といって、速い伝達が特徴で、その伝導を跳躍伝導といいます。電車でいう急行列車みたいなものをイメージしてください。
神経線維は3本を経由します。経由の際にサブスタンスPという神経伝達物質が次の神経線維に情報を伝達し、最終的に大脳皮質感覚野に伝わり、ここで初めて感覚がわかります(この伝達経路や伝達物質に関しては、以下で説明する温受容器、高閾値機械受容器、ポリモーダル受容器も同じです)。
②温受容器
皮膚温32℃以上45℃以下で興奮。
温受容器(自由神経終末)で感知し、C線維(Ⅳ群線維)という神経線維を、神経経路は外側脊髄視床路(下図参照)を通ります。
C線維(Ⅳ群線維)は無髄線維といって、ゆっくりとした伝達が特徴です。こちらは電車でいうと各駅停車みたいなイメージです。32~45℃のものに触れた時、ゆっくりと温感が伝わります。
※顔面領域の温度覚は三叉神経を介します。
外側脊髄視床路↑
出典:生理学 第3版 東洋療法学校協会 医歯薬出版
温度覚は……
10℃以下、45℃以上になると温度覚は痛みに変化する
と言われています。
熱い風呂に入ると、熱いというより痛いですもんね~。
また熱いものに触れたときに熱痛の後に、一瞬冷たく感じることがあります。これを矛盾冷覚といいます。
これは冷受容器の一部に45℃以上で興奮するものがあるためです。
痛覚受容器
①高閾値機械受容器
刺すような鋭い痛み(一次痛とよばれる)で反応し、局在がはっきりしていて、速い反応を示します。高閾値機械受容器という自由神経終末で感知します。侵害レベルの強い機械的な刺激(物理的な刺激)にのみ反応し、その原因となっている刺激が無くなれば、急速に痛みは消失します。
画びょうを踏んだことがある方はイメージしやすいかと思います。踏んでしまった脚を思わず持ち上げてしまうような反射的な動作を起こします(逃避反射、屈曲反射)。
Aδ線維(Ⅲ群線維)という神経線維を、神経経路は外側脊髄視床路(下図参照)を通ります。
②ポリモーダル受容器
うずくような鈍い痛み(二次痛とよばれる)で反応し、局在がはっきりしない遅い反応を示します。ポリモーダル受容器という自由神経終末で感知します。機械的・化学的・温熱刺激に反応します。化学的刺激は内因性発痛物質による刺激、温熱刺激は45℃以上の高温による刺激です。この刺激が無くなった後もゆるく痛みが残り、ゆっくりと消失していくのが特徴です。
鍼灸やあん摩マッサージ指圧などの物理刺激、ウエイトトレーニング後の筋肉痛などをイメージしてもらうとわかりやすいかと思います。
C線維(Ⅳ群線維)という神経線維を、神経経路は外側脊髄視床路(下図参照)を通ります。
※顔面領域の痛覚は三叉神経を介します。
外側脊髄視床路↑
出典:生理学 第3版 東洋療法学校協会 医歯薬出版
鍼を刺したとき、また指圧でズーンと響くあの独特の感覚は、ポリモーダル受容器の反応です。
筋肉や筋膜、骨膜などの深いところには、高閾値機械受容器はありませんが、皮膚と同じポリモーダル受容器がたくさん存在します。
ズーンと響く感覚を得気(とっき)と言いますが、この得気が大脳まで伝達すると、鎮痛効果のある内因性モルヒネ様物質を発生させます。
内因性モルヒネ様物質をオピオイド・ペプチドといいます。
このオピオイド・ペプチドには……
- エンケファリン
- βエンドルフィン
- ダイノルフィン
をメインに、20種類以上存在するといわれます。
身体由来の天然の鎮痛成分と思ってください。
これらが中枢神経内にある、それぞれのオピオイド受容体と結合して、痛みを遮断します。ちなみにβエンドルフィンの受容体はμ(ミュー)、エンケファリンはδ(デルタ)、ダイノルフィンはκ(カッパー)といいます。
鍼を刺すことで、科学的根拠に基づいた様々な効果を出すことができますが、今回説明した身体に備わる鎮痛機構の活性化は鍼や指圧に関する科学的根拠のひとつです。
ということで鍼や指圧において、ポリモーダル受容器に働きかけることが大切であること、そしてポリモーダル受容器狙いの刺激が内因性鎮痛機構(身体に備わる鎮痛機構)を賦活させることができるということを押さえておきましょう。
間違っても高閾値機械受容器(強烈な刺激)に働きかけてはいけませんよ~。
炎症による痛みについて
前述のポリモーダル受容器で感知する痛みの種類で、機械的刺激、化学的刺激、温熱刺激の3種類がありましたが、炎症の痛みに関わるのは、化学的刺激になります。
化学的刺激とは、内因性発痛物質による刺激です。
内因性発痛物質は炎症反応の最初の段階で放出されます。
炎症は組織傷害に対して……
生体を防御(障害因子を排除)
傷害を修復
する反応です。
ですので、身体を治すためには、警告的な痛みだけでなく、壊されて修復している期間の安静のためにも持続的な痛みが必要です。
安静は回復を促進します。痛いと動かしたくなくなりますからね。
持続的な痛みといえば、前述のポリモーダル受容器です。
ここに痛みを感知してもらうことが組織修復のためには何よりも大切です。
このため身体が傷むと、まず最初に内因性発痛物質を放出するわけです。
内因性発痛物質
内因性発痛物質のことをケミカルメディエーターといいます。
ケミカルメディエーターは化学伝達物質のことを指します。その種類は……
- 神経伝達物質
- ホルモン
- オータコイド
の3種類です。
神経伝達物質は、神経線維と神経線維の間(シナプス)で働き、ホルモンは、ホルモンを産み出す細胞から血流に乗せられて全身の細胞へと働きます。
この2つに属さないものをオータコイドと呼びます。
ケミカルメディエーター↑
オータコイドは、オータコイドを産みだす細胞から、直接標的細胞に働きかけます。
ホルモンは血流を利用した全身に波及させる全体調整ですが、オータコイドは局所調整です。
炎症反応は局所の反応ですから、オータコイドその中でも炎症性メディエーターが関わります。
組織の傷害、変性が起きると直ちに放出されます。
次に具体的に炎症の流れについてですが、
まずは持続的な疼痛(痛み)を感じさせるために、オータコイド産生細胞の代表格肥満細胞(ひまんさいぼう)から……
ヒスタミン
が放出されます。アレルギー反応で有名なオータコイドです。かゆみや痛みの原因になります。まずしっかり痛みを感じさせるわけです。
また、損傷した細胞からはカリウムイオンが放出されます。オータコイドではありませんが、こちらも自由神経終末に作用して痛みを発生させます。
さらに修復しようとして集まってきた血液中の血小板からは……
セロトニン
が放出されます。こちらは痛みとともに一時的に血管を収縮します。
以前、他の記事で「神経伝達物質のセロトニン」をご紹介しましたが、ここでのセロトニンは「オータコイドのセロトニン」なので役割が違います。全く別の物質と捉えても良いかと思います。混同しないようにしましょう。
セロトニンによる血管収縮のあと反動ですぐに血管が拡張し、さらに血液が集まり充血します。損傷部位が赤くなって熱を持っている状態です。
ここで先にたくさん放出されていたヒスタミンが血管壁の隙間を広げます。専門的には血管透過性の亢進といいます。
充血していた血液は血管壁を抜けて血管外へ滲み出ます。このとき血液の血漿成分が滲出します。
血漿からは……
ブラジキニン
というオータコイドが産生されます。
このブラジキニンによってさらに血管透過性が亢進し、組織全体に血漿が広がります。これが炎症性の浮腫です。
俗にいう腫れあがった状態です。またブラジキニンによって痛みもさらに増します。
次に損傷した細胞の細胞膜(細胞膜はリン脂質という脂で構成されます)からアラキドン酸という遊離脂肪酸が放出されます。このアラキドン酸が代謝されて……
プロスタグランジン
ロイコトリエン
というオータコイドが産生されます。
プロスタグランジンはブラジキニンの発痛作用を増強し、ロイコトリエンは損傷部位に白血球を遊走させます。
白血球が到着して、いよいよ炎症という火事を消火してくれるんです。
消火後に後片付けや修理が完了して回復・治癒となります。これらの流れは免疫反応の代表例です。
ちなみにお灸は、この一連の炎症を、あえて反応させる施術です。お灸といえば、局所を温めて循環を促すイメージが強いですが、このような「身体に備わる生体防御機能」を喚起してあげることが主目的になります。
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オータコイドと栄養素について
下の表をご覧ください。ここまでに登場したオータコイドはタンパク質や脂質から作られるので、栄養不足は身体を守る炎症反応(生体防御機能)をしっかりと働かせられません。バランスの取れた食事を摂りましょう。
分類 | オータコイド |
アミン類(アミノ酸) | ヒスタミン、セロトニン |
ペプチド | キニン類(ブラジキニン) |
タンパク質 | サイトカイン(免疫反応を起こさせるサインとなるもの) |
脂質 | アラキドン酸代謝物(プロスタグランジン、ロイコトリエン) |
先程も少し触れましたが、ウエイトトレーニング後の筋肉痛は立派な炎症反応です。筋トレ後の筋細胞ではオータコイドが作用しています。そのため筋肉をしっかり修復・強化させるためにも、食事は大切なのがお分かり頂けると思います。
さいごに
痛みのメカニズムについてまとめてみました。
身体を守る、そして修復するためには必要な反応であることがお分かり頂けたかと思います。
やたらめったら、痛み止めや、ステロイドなどで炎症や痛みを止めてしまうことはあまりいいことではありませんね。
これらの利用は、どうしても症状を抑えないと困る局面のみ使用するようにしましょう。あとは極力、身体本来の自然治癒力を高める生活を心がけましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。