臨床医学

腰の椎間板ヘルニアをわかりやすく解説(原因+治療法など)

「椎間板ヘルニア」についての記事です。

MRGにおいても施術やトレーニングでの相談で多い疾患です。

椎間板は、背骨を構成する椎骨と椎骨の間に挟まれショックアブソーバー的役割をしています。

二足歩行のヒトにとって無くてはならない器官といえます。

この椎間板ヘルニア、背骨のどの部位でも起こりうる疾患ですが、胸椎ではあまり発生しません。頸椎と腰椎で多発します。

この記事ではその中でも最も多い「腰椎」のヘルニアについてフォーカスします。

あくまでも様々な腰痛疾患の中のひとつですが、腰痛の代表みたいなイメージが定着していますよね。

そんなメジャーな腰部疾患「腰椎椎間板ヘルニア」について解説していきましょう。

目次

椎間板の構造を知ろう

椎間板は……

  • 髄核(ずいかく)
  • 線維輪(せんいりん)

によって構成されます。

椎間板椎間板

出典:坂井建雄 プロメテウス解剖学アトラス 医学書院

髄核は中心部でゼラチンのような柔らかい水分の多い組織、線維輪は髄核の周りを囲む強靭で弾性のある組織です。

簡単に言えばドーナツ状の硬めのパンの中に、やわらかいあんこ?クリーム?みたいなものが入っている構造です。

ヘルニアとはラテン語で「体内の臓器が、本来あるべき部位から逸脱した状態」という意味です。

例えば、他にも腹部の臓器が腹膜の亀裂から腹腔外に飛び出すものも鼠径ヘルニアとか臍ヘルニアなんていいます。

今回の椎間板ヘルニアとは、上記の髄核が線維輪の亀裂から飛び出してくる状態なんです。

椎間板ヘルニア

出典:坂井建雄 プロメテウス解剖学アトラス 医学書院

次に脊柱についてです。

背骨なんて呼ばれていますが、24の椎骨が重なってできています。

ヒトは進化の過程で二足歩行を獲得し、すべての動物のなかでも重力の影響をもろに受けるようになりました。

どんな動物よりも重心が高く上半身ほど不安定なので、その上半身の荷重はほとんどが骨盤周りに集中します。

この力をできるだけ分散したり吸収するために、背骨はS字状に湾曲しました。

脊柱脊柱

出典:坂井建雄 プロメテウス解剖学アトラス 医学書院

頸椎、胸椎、腰椎は交互に弯曲しているのがわかりますね~。

この椎間板のクッションと背骨の弯曲を利用して、不安定の二足歩行でもスムーズに背骨を動かせるのです。

ヒトの身体はホントに良くできています。

特にこの背骨の弯曲は見事なバランスです。

しかしこの絶妙なバランスゆえに負担もかかりやすく老化が早い上に、組織が若くても間違った使い方をすれば壊れやすい部位でもあるのです。

では次にそのあたりも踏まえて、どのように発症するのかを見てみましょう。

椎間板ヘルニアの病態と原因について

椎間板にはほとんど血管がありません。

そのため栄養を受け取る為にご近所の組織からお裾分けしてもらっているような状態です。

生理学的には「拡散輸送」なんていいます。

わかりやすく例えると、田舎の山奥のようなものです。

道はあまりなく、あっても移動手段が無いので、都会からの輸送が便りです。

都会からの輸送が滞ると田舎の山奥の人々は死活問題ですよね?

これと同じで、周囲の組織の血流が悪くなれば、その組織自体も栄養が足りなくなりますから、椎間板まで運ぶ余裕もありませんし、そもそもその組織も滞ってしまえば、椎間板には栄養は運ばれてきません。

椎間板のご近所の組織といえば、やはり腰回りの筋肉です。

筋肉には血管が豊富ですから、ここが凝り固まれば、栄養や酸素が拡散されてきませんので、椎間板は退行性の変性をしやすくなります。

退行性の変性とは老化のようなものです。

腰の筋肉の状態を常に良くしておかないと、

簡単に椎間板は壊れますよ~

ということです。

では、腰の筋の状態が良い状態とはどういうこと?

もっとシンプルに言うとどういうこと??

伸びたり縮んだり意のままに動かせる筋肉

ということです。

脳からの指令が行き届いている筋肉はこの状態です。

これを訓練するのがウエイトトレーニングに代表される筋トレです。

逆に悪い状態=意のままに動かせなくて硬く凝っている筋肉は血流が滞ります。

この筋肉は簡単に作れます。四六時中悪い姿勢で過ごしたり、間違った身体の使い方をすれば完成です。

筋肉は負担を掛けつづけると、伸び縮みをすることなく力を発揮させられるので、どんどん疲労物質が溜まります。

この疲労物質蓄積の限界を超えた時に痛みの信号に変わります。

すると脳はますますリラックスできなくなり、筋に収縮せよと命令を送り続けて、ガチガチの凝り固まった筋肉を作ります。

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日常生活や仕事時はこういった筋肉にとっての悪い姿勢や動作が多いので、ケアを意識しないでいると、気づいた時には椎間板は変性してしまうのです。

一説には、髄核の含有水分は小児期で88%あったものが、老年期には60%付近まで落ちるそうです。

髄核が硬くなった状態で腰を捻ったり腰に負担を掛ける動作を繰り返せば、クッション効果が落ちていますので周りの線維輪に亀裂を発生させ、ヘルニアの第一歩目を刻んでしまうわけです。

ただでさえヒトの構造上、腰部から骨盤部にかけて荷重が収集しやすい上に、こういった原因によって発症しやすい疾患であることがお分かりいただけましたか?

構造上の特徴(脆弱)から老化しやすい部位であるために、比較的若年層からも発症します。

早い人で20歳前後から、一番多い発症年齢は20~40歳の間です。若くても脆い部位である証明です。

構造の項で説明しましたが、運動量の多い腰椎の下部(4番5番の間、5番と仙椎1番の間)に発症しやすく、上位の腰椎ではまれです。

まず初期は線維輪に軽い亀裂が入り、そこが弱点になります。その亀裂めがけて髄核が移動していきます。

すると徐々に線維輪ごと膨隆して、深い線維輪そのものが線維輪の浅い部分を圧迫したり、後縦靭帯という椎骨の後面で上下の椎骨をつなぐ靭帯も圧迫しだします。この線維輪の浅層、後縦靭帯には「脊椎洞神経」が分布しています。

脊椎洞神経

上の図を良くご覧ください。

この神経は椎間板や椎骨の感覚神経です。

感覚神経なので圧迫されると痛みとして脳に伝わります。

腰部の深いところが痛くなる感覚はこの神経によるものです。感覚神経なので求心性です。

求心とは脳に電気信号が上がっていくことです。

その際中心の脊髄を通るのですが、脊髄に戻る際、脊髄神経の後枝との分岐点を経由するので反射的に腰の筋肉が緊張します。

脊髄の後枝は背部の筋肉の運動神経です。

潜在性ヘルニア

ヘルニアの初期は、この状態から始まります。

強い腰の緊張と腰深くの鈍痛が特徴です。

潜在性ヘルニアとも呼ばれます。この段階でトレーニングや鍼灸マッサージなどでケアをすれば、あまり悪化することはありません。

椎間板ヘルニア

この段階を放置して、さらに病態が進むと上の図のように髄核が線維輪を破って後方に飛び出します。

ご覧のように神経根そのものを圧迫するので、腰痛以上に下半身の痺れなどを感じるようになります。

坐骨神経痛はその典型です。この段階になって病院で受診するケースが多いです。

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腰部椎間板ヘルニアの症状について

初期は腰部の筋の緊張と腰痛です。

進行すると坐骨神経痛を併発して、下半身の筋力低下や、感覚障害などが起きます。

ヘルニアが中心に起こると神経根ではなく脊髄そのものを圧迫することがあるので、その場合は膀胱直腸障害が起きます。

お○っこやう○ちがダダ漏れのようになってしまう症状です。

この場合は大変重篤なので直ちに病院に向かいましょう。緊急手術が必要です。

痛みの出る部位は、腰の下の方です。

痛みをかばうので姿勢性の側弯になります。

腰椎は正常だと前弯したカーブが存在しますが、これも消えています。

真っ直ぐになっているか、逆のカーブになってしまっています。

前かがみや後ろへ反る動作が困難になり、痛みも伴います。

ヘルニアを発症している椎骨(背骨)を叩いたり押したりすると正常な部位よりも明らかに痛いです。

腰部椎間板ヘルニアの治療方法

保存療法と手術療法があります。

MRGはトレーニングと鍼灸マッサージの専門ですので、ここでは保存療法を記します。

急性期

急性期は、できるだけ横になって、腰に負担を掛けないようにしましょう。

どうしても仕事等で動かなければならない場合はコルセットを必ず装着します。

炎症症状が強い場合はアイシングも有効です。ぎっくり腰と同じ対処法ですね。

鎮痛消炎剤の利用

反射的に腰の筋が緊張しますから、血流が悪くなり、炎症も起きます。

このような症状には、非ステロイド系の鎮痛剤が良く効きます。

NSAIDsと呼ばれる痛み止めをお勧めします。ロキソニンとかバファリンとかが有名ですね。

これらは痛みを止めるだけでなく、消炎効果があります。

痛みと炎症を引かせてあげれば、脳の緊張が解除されるので、筋肉が緩み血流が回復します。

炎症が引くことで身体が動かせるようになる為、薬を止めた後に、疲労のコントロールやトレーニングなどで全身のコンディショニングを行えます。

この流れがうまくいけば症状はほとんど出なくなります。どんどん好循環に入るでしょう。

温熱療法

炎症のないときは、日頃から腰回りを温めることも大切です。

ホットパックやカイロ、入浴、お灸などです。

特に夏から秋、秋から冬の時期は気温が急激に下がりますので、痛みを再発しやすいので要注意です。

ウエイトトレーニング

比較的軽い段階であれば悪化する前に、全身の筋力バランスを整えましょう。

炎症が無い段階に行うことが有効です。

行う際は専門家に指導を仰ぐのがベターです。

関節に負担を掛けないフォームを徹底的に身体に叩き込むことで、知らず知らず必要な部位に必要なだけの筋肉がしっかりと付いてきます。

そうすれば背骨のカーブもきれいに形成されていくことでしょう。

トレーニングを継続することで発達した筋肉は疲れにくい良く動く筋肉なので、症状が出にくくなります。

ウエイトトレーニングは正しい動作と適切な負荷で行えば、身体にとって有効な物理的ストレスです。

鍼灸マッサージの利用

日常生活や仕事では気を付けていても、身体に悪い動作による有害な物理的ストレス、また対人ストレスなどもあり、脳が緊張し筋肉が硬直しやすいです。

疲労が溜まり切る前に、鍼灸やあん摩マッサージ指圧などの施術を受けて、これら有害な疲労を取り除く時間を作りましょう。

但し、ただ単に痛くなったからとか疲れたからなどの理由で鍼灸マッサージを受けているだけでは、ただの対症療法になってしまいます。

ですから、ウエイトトレーニングなどで身体作りを並行しながら、日々の疲労を取り除くといったイメージで利用しましょう。

総合的な対処が根治に繋がります。

さいごに

ヘルニアで悩む方は多いですが、ほとんどの方はこのように手術をしなくても、症状を軽快できるのでご安心ください。

手術が必要な方はごくごく一部の方だけです。

最近の研究では、自然とヘルニアが消失することもわかってきていますので、今よりも悪化させないで維持することが自然改善のポイントです。

ヘルニアかな?と感じたら、まずはお医者さんに診断してもらい状態を知ることから始めましょう。

保存療法がOKであれば、今回の記事を参照にしてみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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ABOUT ME
パーソナルトレーナー
相馬達也
「ウエイトトレーニングと鍼灸マッサージで日本を元気に!」を天に与えられた使命として日々試行錯誤しているパーソナルトレーナーです。1児の父でもあります。身体のことならお任せください。
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