「鍼灸のイメージってどんな感じ?」と私の近しい人たちに聞いてみると、
「気?波動?」
「ツボ?」
「舌とか脈とか診てホントにわかるのかよ!」
「神秘的?」
「オカルト?」
「うさんくさいね~」
こんなイメージです。
ネガティブなイメージが多い気が……
私も国家資格を取得するにあたって、専門学校で「中医学(東洋医学)」を勉強しましたが、いつも腑に落ちない気持ちで授業を受けていたのを覚えています。(今もこの部分はあまり変わっていない……笑)
元々パーソナルトレーナーとして仕事をしていたことも大きかったと思います。なぜならトレーニングの分野は完全に科学だからです。
未だにこんな気持ちの鍼灸師であるのにMRGで鍼灸施術を行っている理由は、一定の科学的根拠と医学的根拠(EBM)があるからです。つまり身体に効くということ。
というわけで今回は……
なぜ中医学(東洋医学)的世界観を100%受け入れられないか
鍼灸の科学的根拠について
記したいと思います。
目次
中医学(東洋医学)についての気持ち
確かに世の中には科学では計り知れないことはたくさんあります。かくいう私もそういう世界観(宇宙とか哲学とか死後の世界とか)を信じている人間です。宇宙に原理原則があることは重々承知です。
最近ではこういう不思議な世界も【量子力学】の観点から説明されるようになってきたので、そのうち全てが解明されるかもしれません。
中医学(以後わかりやすく東洋医学)に関しても、もちろん共感できるところがたくさんあります。人の体を局所で見ないで、全体を見て治療をするという東洋医学基本の考え方もすごく大切なことだと思います。
しかし、実際クライアント様に提供するにあたって……
- 科学的根拠に基づいているのか?
- その根拠を元に医学的根拠(EBM)はあるのか?
こういった要素が大切になってきます。
現代医学(西洋医学)は、その治療法や薬品を正式採用する前に、必ず「なぜそうなるか?」という科学的根拠に基づいて研究を行い、年代、性別に偏りを無くした実験対象者に、くりかえし試験を行って治療の有効率を計算していきます。
有効率が高ければ医学的根拠(EBM)が確立されて、実際世の中で採用されるわけです。
それに比べて、東洋医学は2000年以上も前の世界基準、いいかえると、科学的な概念とその研究手法も無かった時代に、経験則(経験の蓄積)のみで体系化された医学です。これを経験医学といいます。
経験医学であるがゆえに……
- ある治療法での良い結果だけが前面に出て、悪い結果はそのほとんどが記録に残らない。
- 効果や結果が厳密かつ正確な記録として残っていないので、科学的根拠がそこにはない。
- 少しでも効果があれば治療法として確立されてしまうため、その治療法の有効率が曖昧。
- 曖昧な根拠や表現が多いので、治療家の感覚によって診断結果が変わりやすい。
- 他の概念との比較が無いので、なぜ効果があるのか証明できない。
という傾向があります。
いいかえれば、
効果があることもあるが、ないこともある
という曖昧な状態。
東洋医学でよく行われる脈診なんかは、私自身が凄腕の先生と呼ばれる方の脈診を実際に受けた経験上、先生によって言うことが違いすぎたり、そもそも脈拍測定で60台だったのに、脈診では数脈(さくみゃく:速い脈のこと)と診断されたり、わけわからん状態でした。(もちろん素晴らしい精度で行う先生もいらっしゃいます。脈診は長い歴史で培われた素晴らしいものです。)
現代医学は必ず血液検査や尿検査、画像診断などを用いてすべてを客観視して数値化し、正常な数値と異常な数値の比較を必ず行い判断されます。
これらはすべて科学的根拠が前提なので、診断にも妥当性があります。診断後も医学的根拠(EBM)を順守して投薬、治療を行います。
病名が同じであればだいたいは同じ治療方針になりますので、誰が治療を行っても一定の効果が間違いなくあります。
私は鍼灸マッサージ師です。3年間現代医学の教科(解剖学や生理学など)を含め東洋医学概論や東洋医学臨床論を勉強して国家試験に合格しています。
当初はもちろん東洋医学的な考えをベースに施術をするために、いろいろな文献や話題の東洋医学本を専門学校時代から現在にかけて結構な数を読みましたし、実際に施術に取り入れていました。
しかしながら結果を出せていたかというと微妙でした。もちろん知識・経験の不足はかなりありますし、そんな生半可な世界ではないことも重々承知です。単純に技術が低いだけということかもしれません。
私見ですが、東洋医学ベースで結果を出せる先生というのは生まれ持ったセンスみたいなものが絶対にあると感じています。この特別な感覚や才能がないと文献のような効果を出すことは困難ではないかなと。
以上のことから、【私にはそのような才能がない】、そして【経験医学ゆえの妥当性の低い東洋医学ベースの施術】という2つの要因から、東洋医学をあまり使わないようにしようという結論に至りました。
いいかえると、東洋医学に関しては、自分なりに使えるところだけ使うという感じです。
それでも鍼灸を行う理由
ここまで、東洋医学への疑念をさらしておいてなんですが、クライアントの精神面までも含めて深い考察を行い現代医学では客観視できないところを見るわけですから……
病院の診断ではどこも悪いところがなく、
相手にされなかったが、
なぜか調子の悪い人
にとっては、東洋医学が数少ない寄り添ってもらえる医療であり、とても大切なポジションに位置していると思います。
だから、私は全否定ではありません。
明らかに根拠のあるもの(いつも同じ効果が出せるもの)は、どんどん取り入れます。
が!
しかしです。
やっぱり経験則での学問をメインに、その患者(クライアント)に寄り添うのは、なんだか違和感が……
クライアントにとって意味のあることをしたい!貢献したい!!
この思いが強いのです。
鍼灸の分野も最近では妥当性の高い研究が進んでいます。科学的根拠がしっかりと確立されています。
ということで、その鍼灸の科学的根拠を中心に置き、外堀に東洋医学の考え方を加えるという今のスタンスが、自分の治療スタイルになりました。
それでは具体的に次の項で、いくつかの科学的根拠をご紹介します。
鍼灸の科学的根拠
簡単に言ってしまえば、古代から伝わる神秘的な魔法のようなものではなく、機械的刺激を利用した物理療法であるということです。あん摩マッサージ指圧も同じですね。
鍼を体に刺すことで、生体の中でいろいろなことが起こります。このいろいろな現象は確実におきます
ここでは様々な研究から科学的な根拠が実証されているものを列記します。
鎮痛効果
鍼を刺すと、痛みの刺激が脊髄を逆行して脳に伝わり、鎮痛物質のβエンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィンという脳内モルヒネが出ることがわかっていて、刺した場所に向かって、これらの物質を介して痛み抑制の信号が逆戻りし、痛みを遮断します。
急性の痛みなどには特に有効です。(ぎっくり腰など)
血流回復&促進効果
鍼を刺すとその部分で軸索反射というものが起きます。
反射とは、本当は脊髄を介して意識とは関係なく跳ね返ってくることを指しますが、この反射は脊髄までいかずに別の神経経路に入って帰ってきます。(学生時代なぜこれを反射と呼ぶのか腑に落ちなかったので、ずっと調べていたら偽反射というらしい……)
この軸索反射によって、血管拡張物質CGRPが血管に働きかけて広げてくれます。
交感神経の緊張で凝り固まっていた筋肉によって血流が悪くなっていた部分が血流促進により、疲労や痛みの原因になっていた物質を流してくれます。
ちなみに、軸索反射が起きている部分は、皮膚が赤くなりますのですぐにわかります。これをフレア現象といいます。

フレア現象
少し見にくいですが、鍼が刺さっているところが発赤しているのがわかります。
当方のクライアントだと「ぽかぽか温かくなってきた~」といわれる方が多いです。
自律神経調整効果
体性ー内臓反射といって、皮膚や体表からの刺激(鍼や灸、マッサージ)が、反射的に自律神経にも作用するという効果です。
自律神経は内臓の運動や血管運動を司っています。自分の意志では内臓や血管は動かせません。
交感神経が働き過ぎれば常に緊張状態になり、胃腸が動かなくなったり、眠れなくなったり、筋肉が凝り固まったりします。
副交感神経が働き過ぎれば、食欲が亢進しすぎて太ってしまったり、気管が狭くなりすぎて喘息になったり、アレルギー症状が出たり、やる気そのものも出ません。
厳密にいうと、体幹部に鍼灸をすると【脊髄反射】が起きて交感神経優位に、手足に鍼灸をすると【上脊髄反射】といって副交感神経優位になるといわれています。
交感神経、副交感神経のどちらを優位にできるかは施術の仕方で異なるので、クライアントの症状に合わせて自律神経調整をしています。
ツボ(経穴)の効果
以前はツボ(経穴)には科学的根拠はないといわれていましたが、現在では多数の研究が行われていて、徐々に様々なことが明らかになってきました。
まずツボ付近は周囲より電気が通りやすいのと、皮膚温が高いといわれています。
これは神経や毛細血管が集まっている証拠です。良い効果も悪い効果も、その部分に反応が出やすいということです。
次にまだ仮説の段階ですが、ツボにはポリモーダル受容器が多く集まっていることもわかっています。
このポリモーダル受容器が鍼や指圧をした時の独特の刺激(得気:とっき)を脳に伝えます。(響きとかズーンとかドーンとか表現されます)

これらは筋肉と腱の境目なんかにたくさん存在していますので、だいたいそんな位置には重要なツボ(経穴)がありますから、この仮説は信用度が高いと感じます。
西洋で発達したトリガーポイントといわれる痛みを発しやすい部位もだいたい同じ位置といわれています。
ここにアプローチすれば響きを出しやすいので、脳に機械的刺激をしっかり送ってあげられます。これにより先ほど説明した鎮痛効果や血流改善効果を高い確率で出してやることができます。
また、痛みの原因物質ブラジキニンが溜まりやすい部位でもあるので、痛みの反応が出やすく凝り固まりやすい場所でもあります。
以上の根拠から、ツボは施術の際に目安としやすいポイントなので、施術に無駄をなくす意味においてその部位を知っておくことはとても大切です。
さいごに
前述していますが……
現時点で科学的に分かっていることを第1に施術することが大切と感じています。そのうえで東洋医学的な考えをプラスしていくことがいいのかな~と感じています。
あくまでも、確実に鍼灸でできることというのは、上記を読んで頂ければお分かりの通り、限定的な効果しかありません。それ以外の効果は改善するかもしれないという経験医学に基づくものです。
MRGでは上記の科学的根拠にもとづく効果効能とクライアントや患者の症状の原因が合致したときのみ鍼灸施術を行っています。
「できないことはできない」というスタンスはお客様に無駄な時間を過ごさせないためにも徹底していきたいです。。
とはいいながらも、これから科学的研究が進んで東洋医学で言われていたことが科学的に証明されて、たくさんのことがわかればすごいメソッドになるかもしれませんから、鍼灸師として今後の展望に期待しちゃいます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の記事は私の思いが大半を占めてしまいました。ご気分を害された鍼灸師の先生がいらっしゃいましたら、この場を借りてお詫び申し上げます。