「ぎっくり腰」についての記事です。
突発的な激痛で動けなくなるのが特徴で、西洋では「魔女の一撃」とも呼ばれます。
日本においての正式な医学的名称は「急性腰痛」といいます。
それではその原因や対処法などを見ていきましょう。
目次
原因
明確な原因は良くわからないと言われています。
そのなかでも一番可能性が高いものは……
椎間関節と呼ばれる背骨の後方にある関節内に、滑膜という関節包を形成する軟部組織が陥入(挟み込み)してしまう
タイプです。
その他には椎間板ヘルニアの始まりのサインであったり、筋肉、筋膜、靭帯自体の微細損傷の場合もあります。
以上のような発症理由から、椎間板ヘルニア以外は画像で検査しても、ほとんどが原因を究明できません。
赤い線が椎間関節
滑膜性の連結(いわゆる一般的な関節)
出典:坂井建雄 プロメテウス 解剖学アトラス 運動器系 第2版
ちょっとした体動で急に発症することが多く、特に前かがみの姿勢の時に起こりやすいと言われています。
普段から筋力と柔軟性を兼ね備えている方は多少の前かがみくらいではビクともしませんが、不良姿勢などで背中や腰に疲労が溜まり、筋肉がカチカチに固まっている人や、運動不足で筋力の弱い人は危険な姿勢です。
筋が固まりすぎていたり弱っていたりすると、無意識下の筋肉による背骨のコントロールがうまくいかずに、姿勢の変化にあわせてうまく骨格が動いてくれません。
すると無理な骨の動きによって、上記の図で示した滑膜が挟み込まれてしまうのです。
また筋肉自体も硬いと伸縮が不自由なので、本当はなんてことない動きでも無理に伸ばされた状態になってしまうため筋肉も傷みやすいのです。
足首でいうところの捻挫に近い感覚でしょうか。
ということで急な動きやひねる動きなども注意しましょう。
中にはくしゃみをしただけで発症してしまう方もいらっしゃいます。
特に朝は身体が硬いので、活動を始める前に寝床の中で軽いストレッチをしてから動き出すと安全です。
症状
発症は必ず上記のような体動から起きます。
よくいわれるのが、「腰がバキッとなった」みたいな表現です。
そこから激痛を伴い姿勢を変えられなくなります。
ひどいと歩くことも出来ず、身体を起こせないために床に這いつくばって進むしかできなくなります。
この時期は炎症が強い時期です。
炎症の強い時期に安静を心掛ければ、2~3日で激しい痛みは落ち着き、1週間もするとほとんど痛みは消失します。
基本は捻挫や打撲と同じカテゴリーと思ってください。
急性の強い炎症期の対応がとても大切です。
ぎっくり腰の対処法
意外と多い間違った対処に……
温める
があります。
先程、捻挫や打撲と同じカテゴリーの傷害であると説明しましたが、急性の怪我なので炎症が強いということを頭に入れておきましょう。
この場合、温めてしまうと血流が促進し、炎症物質が患部へどんどん流入してきます。そのため痛みや熱感、腫れがさらに増し、患部はさらに緊張し苦痛が増してしまいます。患部以外にも炎症が広がってしまうこともあります。
自然な炎症症状は身体の防御機構(免疫)なので必要なのですが、以上のことから炎症が過度になると害でしかありません。
炎症は最小限でいいのです。
炎症物質のプロスタグランジンは痛みを感じさせますが、温めることでたくさん流入してきて、広範囲に広がってしまうと、痛くて痛くて不快でしかありません。
ちなみに温まる行為としては……
- 入浴
- ホットパック、ホッカイロ
- 飲酒
- 筋肉を動かす(伸ばす、縮めるどちらも)
などがあります。覚えておきましょう!
ということで、
明らかに何かの拍子に激痛が出ている場合は急性の怪我ですから、この場合は温めるではなく……
冷やす
でお願い致します。
ただでさえ強い炎症症状、血流をノーマル状態に置いておくことは、炎症が余計な部位まで広がり非常に治りを遅くさせます。ましてや温めたら……
ということで適度に冷やすことで、炎症を最低限に留めてあげましょう。
ここで大切なポイント。
冷やし過ぎは要注意です。
炎症は免疫(防御)反応ですから完全に止めてはいけません。
冷やすことで適度なレベルに落ち着かせるという感覚が大切なんです。
冷やすことをアイシングといいます。
アイシングの際は氷を一度水に通して霜を除去すると凍傷を防げます。
そして直接肌には当てないようにするために氷嚢にいれて少量の水を入れます。
こうすることでちょうど氷の表面が溶けて0℃になります。
氷自体はマイナス20℃くらいなのでアイシングするには冷え過ぎです。
そして患部にフィットさせるために氷嚢から空気を抜いて蓋を閉めましょう。
冷やす時間は15~20分間です。
これ以上は凍傷の原因になります。
次のアイシングまでは1~2時間の間隔をあけてください。48~72時間くらいが強い炎症の時期なので、できるだけこの期間はこのサイクルでアイシングを繰り返します。
前述のとおり、炎症は免疫反応でもあるので、完全に止めないことです。
何度も書いちゃってますが、冷やし過ぎは要注意です。
また急性期においては患部をあまり動かさないことも大切です。
動けば筋肉が熱を発生させますので、炎症がさらに強くなります。
ちなみに安静のスタイルについては横向きで寝るのが一番腰に優しいです。
アイシング&安静期間を終えたら、激痛はほぼ消失していますので、日常生活の動きが可能になります。
徐々に体を動かしたり、アイシングとは逆に患部自体を温めていくと、血流が促進し傷んだ組織の修復や再生が促されます。
炎症反応後の老廃物の蓄積は回復を阻害するので血流で流してしまうのが大事です。
また回復には酸素や栄養が必要なので血流が滞っているといつまで経っても回復資材が運ばれてきません。
よって血流促進はこの時期にとってとても重要です。
ぎっくり腰を発症してから1か月目くらいまでは続けると良いようです。
この頃には完全に違和感もなくなります。
ぎっくり腰と鍼灸マッサージの相性は?
鍼灸、あん摩マッサージ指圧の両者ともに誘導作用というものがあります。
急性期の施術はこの効果を利用します。
炎症部から離れたところを施術すると、そこに向かって血流を誘導できます。
急性期は強い炎症を抑える為に血流を少し抑えることが有効ですから、遠隔部の施術が有効です。
この効果は鍼において顕著です。
マッサージの場合はより心臓に近い部位で施術すると鍼と同じような効果があります。
鍼灸の場合
私の経験上、痛めた腰の部分と同じ筋膜ラインや同系統の神経に関するツボに鍼をすると、患部の痛みが引くことが多いです。
腰に痛みを感じにくくなったところで、さらに鍼の鎮痛作用を利用するため、鍉鍼(ていしん)と呼ばれる刺さない鍼で患部を軽く刺激します。
鍼を刺すとしても浅く一瞬で抜きます(以前深刺しと置鍼で悪化させてしまったことがありました……)。
私の場合、温熱効果の高い灸は使用しません。急性期において温熱は逆効果であるのは前述のとおりです。
あん摩マッサージ指圧の場合
あん摩マッサージ指圧の場合は遠隔部のみしか触りません。
特に下肢の施術です。理由は鍼と同じです。
施術の最後に、心臓に近い上肢の施術で誘導作用を促し仕上げます。
施術を終えたら
これで不快な痛みは和らぎますので、とりあえず日常生活レベルの動きならできるようになります。
動けるようになったからと動きまくるのは避け、基本は安静とアイシングです。これを2~3日は続けましょう。
さいごに
まとめると……
- ギクッときたら、2~3日はアイシングと安静。
- 痛みのレベルが一気に落ちたら、温熱療法と運動を開始。
- ぎっくり腰を防ぐために、日頃から筋力と柔軟性をトレーニングで維持する。
あとは施術家・トレーナーさん向けに、私事で恐縮ながら……
とにかく患部には直接的かつ念入りな施術をしないことです。
鍼なら低刺激、あん摩マッサージ指圧なら触らないことです。
ストレッチングはもっての他です。
あくまでも患者さんの自然治癒力を出しやすくしてあげる姿勢を忘れずに、間違っても「治してやる!!」と変に気合を入れないようにしています。
以上、ぎっくり腰(急性腰痛)についての私の見解でした~。参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。